世界屈指の渋滞地獄は解消できるか? 量子コンピュータを使った実証実験をデンソー&豊田通商がバンコクで実施

世界中で大きな問題となっているのが自動車が引き起こす渋滞です。渋滞はエネルギーや時間をムダにし、生産性を大きく下げるため、国ぐるみで解決しなくてはならない大きな問題です。

渋滞を解消するためには道路を整備するなどのハード面からのアプローチに加えて、空いている道へとクルマを誘導し、道路のキャパシティを有効に使うといったソフト面からのアプローチも重視されています。ナビに渋滞情報を表示して、ドライバーに空いている道を知らせるといった方法はすでに実用化されています。さらに進んだものとしては、ナビが空いている道へとクルマを誘導するというものも実用化されています。

しかし、現状では今の瞬間で空いている道への誘導で、空いている道へ多くのクルマが誘導されれば、結果としてそこが渋滞します。

もしすべてのクルマに理想的な経路を提供できれば、渋滞はかなり解消できることでしょう。それをどうすればいいか?をさぐるため、現在デンソーと豊田通商がタイのバンコクで実証実験を行っています。

バンコクは世界有数の渋滞地域で、市内には600万台のクルマと400万台のオートバイが走っていると言われています。こうした状況のなかで渋滞解消の実証実験を行うということは、とてつもないことなのです。砂漠の中の一本道ではありませんから、A地点からB地点に移動するといっても、さまざまな経路があります。何百万台というクルマがさまざまな目的地に向かって動いているのですから、その組み合わせは莫大な量で、計算を行うとしても従来のコンピュータでは計算に時間がかかってしまいます。

そこで考えられたのが量子コンピュータの利用です。量子コンピュータがどんな仕組みなのかは説明を省きますが、たとえば従来のコンピュータでは1週間くらいかかった渋滞解析が1分程度で可能になるといいます。ここまで高速化できれば、実用化が可能というわけです。

現在、バンコクでは豊田通商が出資する豊通エレクトロニクスという企業が2011年から「Tスクエア」と呼ばれる渋滞予測アプリを実用化しています。「Tスクエア」は約13万台のタクシーやトラックに取り付けられた発信器から送られてくるプローブデータを処理して渋滞情報を得るアプリです。実際に得られる状況は70%程度だということですが、ここにAIによる補間を行って100%の渋滞情報を獲得しているといいます。

この「Tスクエア」から得た情報を量子コンピュータで処理して、渋滞解消やタクシー配車、緊急車両の到着時間の高速化などについて実証実験が行なわれています。

実際にバンコク市内であった状況を元に、同時刻にタクシーの配車リクエスト9件とタクシー9台の総走行距離最小の組み合わせ36万通りから最適なを求めるということを、量子コンピュータを使って行ったところ、正解が出るまでの時間は20マイクロ秒とかなり早い結果となったそうです。

まだまだハード的な開発も発展途上で、革新的なアプリケーションが登場していないことも実用化の壁になっているとのことですが、これらが克服でき実データの解析を続けることで、実際に使えるものにしていきたいということでした。

(文・写真:諸星陽一)

この記事の著者

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諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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