国産スポーツモデルが数多く誕生した1980年代、尖ったメーカーはヨーロッパ名門ブランドとコラボしてスペシャル車両を生み出すに至っていました。そんな日欧コラボ・チューンド車を紹介する本企画、第3回は『いすゞ・ジェミニZZハンドリング・バイ・ロータス(1988年)』です。
エンジン・出力&トルク……4気筒DOHC 16バルブ 1588cc・135ps/7200rpm&14.3kg・m/5600rpm
トランスミッション……5MT/3AT
「『ハンドリング』ってなんのことかはわかんないけど、ロータスはすげえ」……全国の無免許キッズには操安性を意味する言葉はわかりませんでした。しかし、ロータスは知っていました。『007』で潜水するスーパーカー(エスプリ)のメーカーだからです。
そしてもう少し大人のキッズにとっては『サーキットの狼』の例のあのクルマ(ヨーロッパ)の会社として知りまくっていました。
「あのロータスが、いすゞと組むってすげえ」……大人もキッズみたいに心踊ったのです。
いすゞは1986年、2代目ジェミニにドイツ有名チューナーのチューニングを施した『ジェミニ・イルムシャーターボ』を追加しました。その2年後となる1988年2月、今度はイギリスの名門・ロータスが足回りのセッティングを手がけた『ジェミニZZ ハンドリング・バイ・ロータス』が追加設定されます。
ロータスは1950年代に設立されたイギリスのスポーツカー&レーシングカーメーカーで、生み出す車両はいずれも敏捷な運動性を持っており、世界中にファンが多い会社です(現在は中国・吉利汽車傘下にあります)。
いすゞとこの英国スポーツメーカーがタッグを組んだ背景には、1986年1月にGMがロータス社を買収したという事実がありました。この提携を受けて、当時同じGMグループに所属していたいすゞは4XE1型1.6リッター4気筒DOHC16バルブエンジンをロータス・エラン(2代目)用に供給することになったのです。
このエラン用と同じツインカムユニットを搭載したいすゞ車こそ、『ジェミニZZ ハンドリング・バイ・ロータス』でした。
この日英コラボ車は、フロントに低圧ガス封入式ダンパー、リヤに高圧ガス封入式モノューブダンパーを採用するほか、スプリングやスタビライザーなどにロータス独自のセッティングが施されました。内装ではファブリック表皮のレカロシートやMOMO製ステアリングホイールが特徴です。
1989年7月にはこのモデルをベースにエクセーヌのレカロシート&ドアトリム、BOSE製のスピーカーなどを採用した高級仕様の『ジェミニZZ SEハンドリング・バイ・ロータス』も発売されています。
この日英同盟スポーツは3代目ジェミニでも継続され、ZZハンドリング・バイ・ロータスは1993年まで販売されました。
そして、このロータス・チューニングのモデルはいすゞの別モデルでも展開されていきます。1988年5月には上級モデルであるピアッツァでも『XEハンドリング・バイ・ロータス』として発売開始されるのです。
これは2リッターの4ZC1型ターボエンジンを搭載しており、ジェミニ同様に英国的な濃緑のボディカラーとBBS製ホイールが設定されていました。
また1989年には初代ビッグホーンに『スペシャルエディション・バイ・ロータス』という特別仕様が設定されます。続いて1991年に登場した2代目の時点では、ジェミニ同様の『ハンドリング・バイ・ロータス』名義となって英国仕立てが追加されます。
このときレカロシートは採用されませんでしたが、濃緑系の外装とオプション装備のBBSは設定されていました。
なお、日本のジェミニでは1.6リッターのツインカムエンジン搭載車にのみロータスチューンの足回りが設定されていましたが、北米向けジェミニ『I-MARK(アイマーク)』では1.5リッター・ターボ(日本仕様イルムシャーターボに採用されていたエンジン)搭載車両にも、この英国メーカー味付けによるサスペンションがセットされています。
ちなみに北米仕様車では『ハンドリング・バイ・ロータス』というグレード名はなく『RS』と『LS』というごく普通のネーミングでした。当時の北米市販車では今ほどハンドリングにバリューを見出していなかったため、名称に加えるほどではない、という判断だったのかもしれませんね。
(文:ウナ丼 写真:いすゞ自動車)