TOKYO DRIFTをご覧の方はわかったと思います。2017年のD1GPで斎藤太吾選手とコルベットのパッケージは、マシンが壊れないかぎり圧倒的に最強で、ほかの選手が自力で勝つことはほぼ不可能になりました。
単走決勝での斎藤選手の最高速は127.1km/hでした。次に速かったのが平島選手の118.2km/hですから、約9km/hの差があります。これではお話になりません。なぜそのような状況になったのか? まずドライバーとしても斎藤選手はトップクラスですが、運転のテクニックだけでいえば、川畑選手、藤野選手あたりは互角でしょう。大きなちがいはマシンにあります。
斎藤選手のマシンは約1050kgと、D1GP車両のなかでもトップクラスに軽量です。それでいて、リヤのタイヤ幅は誰よりも太い315幅のものを使っています。ほかにも1000kg台の軽量なマシンはありますが、315幅などという太いタイヤを履いている車両はありません。これこそが、斎藤選手の強さの最大のポイントだといっていいでしょう。
D1GPのレギュレーションで、タイヤ幅は285までと決められています。ところが例外があります。純正タイヤの幅が285より太ければ、そのサイズまでは認められるというわけです。これは、シルビアクラスのスポーツカーがなくなり、FR車といえば、重量級の大型車ばかりが残っている近年の状況を見て、現行車種でも参加しやすいように決めたレギュレーションだと思われます。
まぁ、レギュレーションを決めた側は、あくまでも日本で一般的にチューニングのベースになる車両しか想定していなかったのかもしれません。しかし、天才の特質として、先入観にとらわれないという要素があるようです。斎藤太吾選手は、レギュレーションを見ながら、ゼロベースで最強のD1マシンを考えたわけです。
その結果選んだのがシボレー・コルベット。軽量化が可能なうえに、純正で315幅のタイヤを履いている。この車両を選べば、軽い車体にぶっといタイヤが履けるのです。ドリフトも物理の法則には逆らえないので、軽量でグリップ力の高い車両にはどうやってもかないません。ましてや斎藤選手のように運転スキルも高いドライバーが相手だと、ドライビングで車両の性能差をカバーすることも不可能です。
もうひとつ重要な要素があります。斎藤選手は、モンスターエナジーやワンリータイヤがメインスポンサーです。国産の現行車を使うとか、国内ブランドのパーツを使うといったしがらみからかなり自由なのです。だからこそできたパッケージだともいえます。ほかのチームはなかなかここまで自由に車種やタイヤサイズを選べないのです。
もちろん、このパッケージを仕上げるのは容易ではなく、そのへんも天才が作り上げたチーム体制、参戦体制によるものだといえるかもしれません。
というわけで、現在、ほかのチームは、斎藤選手のマシンが壊れることを祈る以外に手だてがないというのが現状です。もちろん斎藤選手が悪いのではありません、斎藤選手としては、ほかのチーム、ドライバーに対して「このレベルですごいものを見せてやろうぜ!」と思っているでしょう。どちらかというとレギュレーションが後手に回っているというのが実情だと思います。
ちなみにアメリカのドリフトシリーズであるフォーミュラDでは、車重に対してタイヤサイズが規定されていて、事情は異なるようです。
ともあれ、ひとりだけが圧倒的に強いという状況は、競技としてはあまりよくありません。とはいえ、せっかくこんな天才が、ものすごいドリフトでリードしてくれているんだから、斎藤太吾選手をつぶすことはなく、より幅広い車両が近いレベルで戦える環境を作ってほしいと思います。
まぁ、モータースポーツというのは、いろいろしがらみがあって難しい面もあるんですけどね。
といいつつも、10月7日に行われたD1GP最終戦の優勝は横井昌志選手。シリーズチャンピオンは藤野秀之選手に決まりました。横井選手が優勝できたのは、決勝で斎藤選手のマシンが壊れたおかげ、藤野選手がチャンピオンを獲れたのは、コルベットが仕上がっていなかった第1戦と第2戦で斎藤選手がポイントをとりこぼしたおかげという面もあります。とはいえ、マシントラブルを起こさずに走るということも、モータースポーツでは重要な要素。横井選手、藤野選手ともに、見事な戦いっぷりでした。おめでとうございます。
第7戦(最終戦)優勝の横井昌志選手。
2017年シリーズチャンピオンの藤野秀之選手。
(まめ蔵)
(写真提供:サンプロス)
【関連リンク】
D1GP第7戦の模様は11月17日発売予定の『D1GP OFFICIAL DVD』に収録されます。
ビデオオプションの情報は公式サイト(http://www.d1gp.co.jp)へ。また、D1グランプリの詳しい情報は、D1公式サイト(www.v-opt.co.jp)まで。