通常、一般ユーザーを対象とした試乗会といえば新規顧客を獲得するためか既存顧客に対するサービスのためにメーカーやディーラーが開催するものです。
しかし昨年の12月21日に日産が『新型スカイライン 乗らず嫌い試乗会』と銘打って開催した試乗会はちょっと…いや、かなり趣向が違うもの。
なんてたって、現行スカイラインのファンどころか「支持しない」人たちに向けたものだったからです。
レースシーンを中心に歴代モデルが築き上げてきた“スカラインブランド”は多くのファンを産み出したことはみなさんご存じでしょう。
ただ、「直6エンジン+丸テールランプこそスカイライン」と考えているファンがいまだに多く、そういう方々にとってデビュー時ハイブリッド仕様として登場した現行モデルの評価は散々たるもの。
日産のFacebookページで現行モデルの記事を掲載すると、「なぜ丸テールランプじゃないのか?」「直6を搭載しないならスカイラインではない」「スカイラインなのにハイブリッド!?」「なぜエンブレムはインフィニティ??」といったネガコメで炎上することもあったようです。
しかし「ピンチをチャンスに!」ではないですが、そんな現状を逆手にとって「ネガコメを送る人たちに実際、現行モデルに乗ってもらって評価してもらおうじゃないか」と日産のソーシャルネットワークプロジェクト“にっちゃん”が中心となって企画したのが今回の試乗会なのです。
試乗会は日産のテストコース「日産GRANDRIVE(グランドライブ)」で開催され、日産からスカイライン開発責任者・長谷川聡氏(写真上)、デザインなどを担当した統括グループ主担村松友幸氏(写真中)、そして車両実験部テクニカルマイスターの加藤博義氏(写真下)が参加。一癖ありそうな8組・計14名のアンチユーザーに対応しました。
肝心な試乗内容ですが、今回はターボモデルではなくハイブリッド仕様の「350GT」を使い、
『0〜100km/h体験』、世界で初めて採用されたバイ・ワイヤー・ステアリングをトライしてもらう『DAS体感』、スカイライン自慢の安全装備『PFCW(前方衝突予測警報)』チャレンジ、そして当日急遽追加された『加藤博義氏と同乗走行』の計4つのプログラムを準備。
いずれも現行モデル自慢の高い性能が思う存分試せる内容で構成されました。
試乗前は、「シャープさがない」、「DASの感覚は自分に合わないと思う」、「ハイブリッド=スポーティではない」と現行モデルに対して遠慮ない声をあげていた参加者たちですが、筆者が試乗を終えたあと感想を聞いて見たところ、
「発進後、すぐに訪れるモーターのパワーに驚きました!」
「これから出てくるクルマはDASのような先端技術がないと評価されないのでは」
「(PFCWについて)安全性を気にする女性としては凄い装備なのでびっくりしました」
など、動力・走行性能や安全装備など最先端の技術を搭載した現行モデルの評価は一気に変わっていました。
なかには「メルセデスベンツEクラスを購入しようとしていたが、スカイラインに変更するかも」と話す人さえいたほどです。
とはいえ、なかには「性能が凄いことは理解できたが、ボディは大きいし価格が高いことはスカイランとはいえない」と自らのスカイライン像と現行モデルが乖離していると話す参加者も。
それでも開発責任者・長谷川聡氏は「実際、クルマに乗っていただくことで良さをわかってもらえることがよくわかりました」と試乗会を振り返り、統括グループ主担村松友幸氏も「昔と違いモータースポーツなどでイメージをつけることが難しくなったいま、ユーザーさんと直接話すことができた今回のイベントは今後の開発に繋がることができると思います」と続けました。
ある意味、逆転の発想で企画されたアンチ向け試乗会。国内新車販売が伸び悩む中、今後、このようなイベントがトレンドとなるかもしれません。
(テヅカ・ツヨシ)