ダライ・ラマ法王14世に原発問題、エネルギー問題を訊く

チベットの宗教的指導者ダライ・ラマ法王14世が11月初旬に東日本大震災の慰霊法要のために来日しました。そして多忙を極める中、11月7日に自由報道協会主催で記者会見が行われました。

記者会見ではチベットの現状や後継者問題なども語られましたが、法王が原子力発電を容認する立場であるということもあり、福島原発事故を絡めた質問を、イタリア人記者で「放射能という津波」という本をイタリアで出版したビオ･デミリオ氏が行いました。

質問の主旨は筆者の考えと若干違っていたのですが、法王が発言した回答は筆者が聞きたかった多くのことを含んでいました。記者会見の時間に限りがあること、そして出席者が多数であったことを考え、回答が重複する質問をすることを遠慮させていただき、代わりにビオ・デミリオ氏の行った質問と法王の回答を掲載させていただくことにいたしました。

質問及び回答は共に英語で行われ、掲載する文章は通訳の方が訳したものを筆者が要約させていただいております。要約をしていないもを知りたいという方は、この記事の最後にある動画のリンクから記者会見の映像をご覧ください。

質問者　ビオ・デミリオ氏
－ 今回は地震の被災地、津波に遭われた地域を訪問されたと聞いております。
法王は原子力エネルギーに賛成するとおっしゃっておりますが実際に法王が訪れました仙台や石巻などの地域ではどこでも復興のために希望を持って働く姿が見れますが福島では未だに不安と絶望の中に生きています。
（福島原発事故地域の写真を見せて）ここにありますのが福島第一原発の、20km圏内の立ち入り禁止区域で撮られた写真なのですが、見ていただいてわかりますように、見捨てられた家畜が飢えで死んでいきました。
まだ福島の事故によって直接の死者は出てはいませんが、多くの動物が命を落としているということなのであります。
人間は幸せに生きる権利があると思います。その中には放射能に侵されないで生きる権利もあるのではないかと思うのですが宗教的なリーダーとして、また人権保護者として、法王のお考えはいかがでしょうか。

ダライ・ラマ法王14世の回答
－常に私が強調して皆さんにお話をしているのは常にものごとを見るときは全体的にものを見なさい、ということです。つまり、例えば何かを決めるときにも一面だけで物を決めてはだめだということです。原子力についても同じことが言えます。

例えば破壊的な目的で使うものにおいてはやはり破壊的なものしか生まないということです。

私は初めての来日、もしかすると2度目の来日の際に広島を訪問しました。そして原爆が投下をされました建物も見ております。別の機会ですが原爆資料館にも訪問させていただきました。記憶にございますのが被爆をした方の時計でしょうか。10時のところでちょうど止まって、焼け融けた状態で展示されておりましたしまた。束になった糸が融けてしまい、ひとつの塊になっているものもありました。そして、実際に被爆者の方の声も聞かせていただきました。そういった意味で原子力が兵器として使われるというのであれば、これは決して望ましい状態ではないと思います。

しかし原子力が平和目的で使われるのであれば、これはまた別の問題ではないかと考えます。もし原子力発電所の他に代替案があるのであれば、それはそれでいいでしょう。ひとつは水力ダムを作るということもあると思います。しかしこれは自然に対しての何らかの破壊、悪影響が及ぼされます。また風力エネルギーや太陽エネルギーというものもありますがまだ充分ではありません。ここで言う充分とは、例えば日本の方々、あるいは先進国の方々にとって充分ということではなく、今から発展を遂げなくてはいけない国々にとって充分でなくてはならない、と思うわけです。そうでなければ、貧富の差がますます拡がることになってしまいます。

私達は今から発展していかなくてはいけない人々のことも考えて、これから方策を考えていくべきだと思うわけです。だからこそ最終的な意思決断というのは専門家の方々が、もっと全体的に広い角度からこの問題を捉え、そして最大限の注意を持って結論を出されるべきだと考えております。

何かをなすべきときは99%の安全性というものを考えていただきたいと思います。しかし、いくら安全に対して配慮をしても1%の危険性というものは残ります。何事も100%安全、とはいえないと思うのです。例えばクルマを運転していても1%の危険は必ずどこかにあるでしょう。おいしい食時をいただいていても、何かのリスクを負うかもしれない。こうして私達が集まっているこの会場でさえ、もし何か大きなことが起きるかもしれない。そういうリスクは全く無いとは言い切れない。だからこそ万全を期して物事を行っていく、ということが大切なのだろうと思います。

チェルノブイリの事故がありました。あの発電所は古く、充分な注意がなされていなかった。それがゆえにあのような大きな問題になりました。もしかすると今回の福島原発も、ここまでの津波が予想されていなかったから、このような状況が生じてしまったと、このように考えられるかもしれません。大切なのは常に安全策を最大限に考えること。そしてそれに基づいてなされるならば、物事はいいのではないかと思います。

だから、例えば原子力発電所はいらないと皆さんがお決めになるのなら、それはそれでいい、と私は思います。

この回答の中に、私達が何をなすべきかを示すヒントが多分に含まれていると筆者は考えていますが、皆さんはどのようにお考えになりますか？

（北森涼介）

関連動画　ダライ・ラマ法王14世 来日​記者会見　主催：自由報道協会
http://live.nicovideo.jp/watch/lv69345575