池沢早人師に訊くスーパーカーブームのウラ側「第5回:ディーノへの想いは・・・悲しくも美しいものなんだ」

夭折したエンツォの息子「ディーノ」と「沖田」の共通項

1970年代後半を席巻した『サーキットの狼』。今もなお数多くの自動車ファンを魅了し続け、作中に登場したスーパーカーたちは鮮明な記憶として脳裏に刻まれている。

今回は交通機動隊出身でレーサーに転身したキャラクター・沖田と、その愛車として活躍を果たしたディーノ246GTについて、作者である池沢早人師先生にお話しをお聞きする。

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作中では魅力的に描くためにデフォルメして描いた

『サーキットの狼』の作中で、最後まで名字しか出てこなかった「沖田」はクセの強いキャラクラーなんだよね。初登場時は秋田県出身の警察官でスピード違反を取り締まる交通機動隊「新撰組」に属していたけど、後にそのドライビングセンスを見出されて警察を辞めレーサーになるという設定。登場人物の中では“男臭い”存在なんだけど、女性的なディーノ246GTに乗せることでキャラクターを際立たせることができたと思う。

まだ『サーキットの狼』の構想を練っている頃の話だけど、友人がディーノ246GTに乗っていて、そのスタイルの美しさに惚れてしまい無理を言って譲ってもらったんだ。

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でもね、そのディーノは10回ドライブに行くと5回はトラブルを起こすほどの絶不調(笑)。富士スピードウェイにサーキットライセンスを取りに行った時にはエンジンが壊れてしまい、修理するのに250万円(現在の価格で約1000万円)もかかったからね。新品のエンジンを乗せ換えた方が安かったかもしれない・・・。

でもね、そこが“惚れた弱み”ってヤツ。その結果、ディーノとの過酷な付き合いが『サーキットの狼』に登場する沖田に繋がっていくことになる。結核を患っていてレース中に死んでしまう悲劇のヒーロー。

そのバックボーンには苦労させられたボクとディーノとの関係をベースに、エンツォ・フェラーリと彼の息子であるアルフレード・フェラーリ(愛称:ディーノ)との悲しい物語も投影されているんだ。

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トラブルが多かったディーノ246GTだけど、スタイルの美しさは出会ったクルマのなかではトップ3に入る。大好きなクルマだから作中ではカッコよく見えるようにロー&ワイドにデフォルメして描いていたんだ。ここだけの話、ディーノが登場する場面は他のクルマよりも気合が入っていたかもしれない。

その後、友人がフルレストアをしたディーノ246GTに乗せてもらったんだけど、その瞬間・・・目から鱗が落ちたというか本当にビックリした。ディーノってものすごく快適で官能的なんだよね。ボクが乗っていたクルマと同じとは思えなかった(笑)。

本来のディーノは素晴らしいクルマで、ドライブしているとエンツォが大切な息子の名前を付けた理由がよく理解できる。今でもベストコンディションのディーノがあれば欲しいと思っているけど難しいだろうなぁ・・・。

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Dino 246 GT

ディーノ246GT

GENROQ Web解説:跳ね馬を持たない「特別」なフェラーリ

ディーノの名前を聞いて、エンツォ・フェラーリの息子を思い出した人はかなりのカーマニアだ。1967年に登場したディーノ206GTは2リッター(1987cc)という小排気量を持つV型6気筒エンジンを搭載し、フェラーリ初となるミッドシップ(横置き)を採用したコンパクトな量産スポーツカーだった。

ディーノの伝説はその車名が大きな意味を物語っている。フェラーリの創設者であるエンツォ・フェラーリの長男アルフレード・フェラーリは“ディーノ”の愛称で呼ばれていた。しかし残念なことに1956年に24歳という若さでこの世を去ってしまう。

病床のディーノがアイデアを出したとされる65度のバンク角を持つV型6気筒DOHCエンジン搭載モデルは、既存のフェラーリと差別化を図るため「ディーノ」の名前が与えられ、フェラーリとは別ブランドとして世に送り出された経緯を持つ。

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フェラーリが輩出したクルマでありながらも、エンブレムには跳ね馬のモチーフを見つけることができない(標準仕様には跳ね馬とFerrariのエンブレムは装着されず、オプション設定になっていた)こともディーノが特別なクルマであることを意味している。

その後、ディーノは1969年に排気量を2.4リッター(2418cc)へと拡大し、車名をディーノ246GTに改め1974年まで販売した。当時の新車価格は900万円(現在のレートに換算すると約3600万円に相当)。

F2のホモロゲート用として開発されたディーノ206GTに搭載される2リッターエンジンは185ps/8000rpmの最高出力を発揮し、排気量を拡大した246GTに搭載される2.4リッターエンジンは195ps/7600rpmへとパワーアップが図られている。

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ピニンファリーナがデザインを手掛けた流麗なボディは全長4230×全幅1702×全高1110mm、ホイールベースは2340mmとなり、サスペンションは前後共にダブルウィッシュボーンを採用。

当時、フェラーリはV型12気筒エンジンをスタンダードな存在と位置づけ、後に登場するV型8気筒を搭載した308シリーズなどは「リトルフェラーリ」と呼ばれることとなる。そのルーツがコンパクトなV6ユニットを搭載したディーノであり、その系譜は現在のF8トリブートまで延々と継承されている。

そして2019年の後半にはV6エンジンとハイブリッドシステムを組み合わせた新型ディーノが復活すると噂され、約半世紀の時を経て蘇る“ディーノの伝説”に大きな期待が寄せられている。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)

(GENROQ Web編集部)

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