アストンマーティンDBSヴォランテ 初試乗! V12サウンドを浴びて走る唯一無二の快感

Aston Martin DBS Superleggera Volante

アストンマーティン DBS ヴォランテ

爽快なるスーパーグランドツアラー

「実を言うとDBSのあの四角いステアリング、私はあんまり好きじゃないんです。デザイナーがどうしても使いたいって言うんで(笑)。丸いタイヤからのインフォメーションを伝えるステアリングは、やっぱり丸くないとダメだと信じています」

こういうちょっと古臭い持論を自信たっぷりに展開するエンジニア、個人的には大好きである。彼はマット・ベッカー。肩書きは「チーフ・エンジニア/ビークル・エンジニア」となっているが、アストンマーティン全車の味付けを担う人物である。

「正直、DBXの開発は大変でした。あんなに重心の高いアストンマーティンはこれまで1台もないし、でも乗った瞬間にアストンマーティンだと分からないといけない。チームのみんなで徹底的に作り込んだので、皆さんの期待を裏切ることはないと思いますよ」と語るように、彼のゴーサインが出ないと新型のアストンマーティンは世に放たれない。そんなキーマンと試乗を終えた後のディナーで、最新モデルであるDBSスーパーレッジェーラ ヴォランテについて語り合った。

アストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ・ヴォランテは、簡単に言えばアストンマーティンDBSスーパーレッジェーラのコンバーチブルモデルである。DBSスーパーレッジェーラとは、DBシリーズの頂点に君臨するモデルであると同時に、アストンマーティンの商品ラインナップにおける3本目の柱である。1本はDB11をはじめとするGTシリーズ、1本はいまのところヴァンテージがその役目を担うリアルスポーツカーシリーズ、そしてこの2本の中間に位置するのがDBSの属するスーパーGTシリーズである。

「私が現職に就いた時、アストンマーティンのプロダクトはポジションがぐちゃぐちゃでした。どれがスポーツカーでどれがGTなのかがよく分からない。アンディ・パーマー(社長)に『どうだ?』と聞かれたので正直に伝えたら『だから君を選んだんだ』と言われました。以来、3本の柱を立て、それぞれのキャラクターを明確にすると同時に差別化も図ってきたのです。DBSスーパーレッジェーラはスーパーGT最初のプロダクトで、このヴォランテが2番目ということになります」

720psを誇るコンバーチブルは独自のセッティング

クーペのDBSスーパーレッジェーラのコンバーチブルモデルなので、パワートレインやシャシーは基本的に共通である。すなわち、720ps/900Nmを発生する5.2リッターのV12ツインターボ、リヤトランスアクスル・レイアウトのZF製8速オートマチック・トランスミッション、前ダブルウィッシュボーン/後マルチリンクで電子制御式ダンパーと組み合わされるサスペンションをボランテも備えている。

「ただし、リヤのスプリングレートとダンピングレートはそれぞれ30%ずつ高くしました。コンバーチブルにすることで車体中心より主に後方で約100kg重くなったので、後輪にかかる荷重がクーペと異なるため、独自のセッティングとしています。フロントはクーペとまったく同じです」

100kgの増加はほとんど気にならない

そもそもスーパーレッジェーラとはイタリア語で“超軽量”を意味する言葉であり、ボンネットをCFRP製にするなどの軽量化が図られていた。そこへ100kgも追加されるのだから、運動性能に大きな影響を与えることが懸念されたのだけれど、実際にはほとんど気にならなかった。2000rpm以下ですでに900Nmの最大トルクが手に入るわけで、圧倒的な加速感は健在である。V12を積んで100kg増えても乾燥重量は1863kgなので、V12のポテンシャルは100kgの重量増などもろともしなかった。

305/30ZR21のピレリPゼロの後輪2本だけでこのパワーを司ることになるから、勢いよくスロットルペダルを踏んでしまうとすぐにホイールスピンしていまう(直ちにトラクションコントロールが働くので危険ではない)。ただ、スロットルペダルの踏み込み量に対する出力/トルクの出方はリニアであり、コントロールしやすかった。

三重奏に酔いしれるV12ツインターボ

このV12はとにかく気持ちがいい。ふたつのターボの存在はほとんど感じさせず、自然吸気のようにレブリミットまでストレスフリーで吹け上がる。725ps/900Nmは数値だけを見るととんでもない代物だと思うが、実際のパワーデリバリーは力強いがジェントルでもある。スーパーGTという立ち位置にピタリと合った味付けだ。シートへ張り付くような加速もさることながら、このエンジンの魅力はやはりサウンドだろう。吸気と排気とメカニカルの三重奏は、フェラーリやマセラティとはまたひと味違った、上質感のある透き通ったサウンドである。もちろんクーペでも同じ音を奏でるが、オープンにすればこれがサラウンドで直接耳に届くのである。この音を聞きたいがためだけに、わざわざスロットルペダルを何度も踏み込んでしまったほど、すっかり魅了されてしまった。

「サウンドもまた、アストンマーティンでは重要な要素のひとつです。他のどれとも似ていない、オリジナルな音でなくてはいけません。ところで、ヴォランテは重くなった分だけパフォーマンスデータで比べるとクーペより若干劣ります。それでも0-100km/hで3.6秒、最高速は340km/hですから、おそらく不満はなかったのでは?(笑)」

コンバーチブル化したことで重量配分は50対50に

操縦性も基本的にはクーペに準じているが、クーペよりも目の前にあるV12の質量をあまり感じない。ボディもしっかりしていて、剛性不足が操縦性に悪さを及ぼしている感じも皆無だった。乗り心地は速度依存度が低く、どの速度域でも同じような乗り心地を提供してくれる。電子制御ダンパーのセッティングは3段階から選べるが、もっともハードなスポーツ+にしても、助手席から文句を言われない程度の乗り心地が確保されている。ただし、クローズ時よりオープン時のほうが乗り心地がいいと感じた。

「クーペの前後重量配分は51:49で、実はややフロントヘビーでした。それがコンバーチブルになってちょうど50:50になったんです。V12の重さを意識しなかったのはおそらくそのせいでしょう。ちなみに、重心高はクーペもヴォランテもほとんど変わりません。100kg増の内訳は、主にコンバーチブルに関する構造物とボディの補強です。両側のサイドシルとリヤのバルクヘッド付近を強化しました。補強はしたものの依然としてクーペのボディ剛性のほうが高いのは事実です。でも、運転してもらって分かるように、路面からの大きな入力に対してもボディ剛性が足りないことはなかったはずです。オープンのほうが乗り心地がいいと感じましたか? クローズとオープンでは、ボディのねじり剛性で5%くらいの差があるんです。よく分かりましたね(笑)」

クーペとは異なるブレーキフィール

ブレーキは前後共にカーボンセラミック製ディスクが標準装備される。制動力自体にはまったく問題なく、しかしペダル操作に対する制動力のレスポンスがクーペとは少し違っていた。ヴォランテのほうが線形に立ち上がるのである。クーペはブレーキペダルを踏むと直ちに制動力が立ち上がる傾向にあって、細かいコントロールがしにくかった。

「おっしゃる通り、バキュームブースタを再調整して制動力の立ち上がり方を変更しました。クーペでは制動力の立ち上がりがやや急すぎるという声もあったので、ヴォランテではそれをあらため、踏み込み量に対してよりリニアに制動力が立ち上がり、初期制動の領域でも細かいコントロールができるようになっています」

オープン時の開放感と魅惑のサウンドシャワー以外にも、このクルマを運転していると思わず恍惚とした表情になってしまう瞬間がある。ステアリングを切っている時だ。ヴォランテの向きを変えようと思ったら、ステアリングの操舵角はほんのわずかでいい。極端に言えば、時計の11時から1時の間くらいの範囲でたいていのコーナーはクリアできる。ステアリングを指1本分程度動かせば、フロントノーズが“スッ”と動いて速やかにターンインの体勢に入る。この時、ステアリングゲインは決して高くなく、フロントが巻き込むように入っていくような様も見せない。まるで後ろの方から向きを変えてくれているかのごとく、スムーズに旋回姿勢へ移行する。

絶妙なハンドリングの狙い

ターインの手前のブレーキング時に、フロントへきちんと荷重がかかると同時に、後輪のトラクションを確保するだけの荷重がリヤにもちゃんと残っている。荷重移動の速度と量も極めて適正なのである。だからコーナーが連続する場面でも、ステアリング操作はビジーにならないし、バネ上のロール/ピッチ方向の動きにも無駄がない。ブレーキを使ったトルクベクタリングが動いているようなのだけれど、それもほとんど分からない。とにかく思い通りにクルマが動いてくれてすこぶる気分がいいのである。

「(ちょっと嬉しそうな顔をして)そう感じていただけたなら本望です。確かにブレーキのトルクベクタリングを採用していますが、そんなに積極的には介入していません。ターインの時に少ないステアリングの舵角でも自然にきちんと曲がれるようセッティングしました。ステアリングレシオは13.09:1でどちらかと言えばクイックなほうではありますが、フェラーリなどは12台で、個人的にはそれはセンシティブ過ぎると思っているので、あえて13台にしてあります。このステアリングレシオとトルクベクタリングにより、DBSの操縦性はステアリングゲインが高いと感じないし、ナーバスにも感じないけれど、リニアでよく曲がるという印象になっていたはずです。ですよね?(笑)

結局のところ、DBSのみならず現行のアストン・マーティンのハンドリングが総じてそうなっているのは、ファンダメンタル(=基礎的なこと)な部分をきちんと作り込んでいるからです。具体的には、前後の荷重移動やタイヤのコーナリングフォースの立ち上がり方やタイヤの接地面変化を少なくするとか最適な減衰力とスプリングレートといったさまざまな要素をコツコツと積み重ねていった結果です。基本ができていないと、トルクベクタリングやEデフを使っても違和感が生じてしまう。逆に基本が正しく整っていれば、電子デバイスの介入はわずかで済むし、自動的に自然なフィーリングになるのです」

2m以内であればリモコン操作でも開閉可能

ヴォランテは、リヤフェンダーとトランクリッドがクーペと異なっている。コンバーチブルのソフトトップを収納するという機能性とDBSスーパーレッジェーラの雰囲気を壊さないというふたつの目的を達成するためであり、それも見事にクリアしている。トランクリッドの表面形状とリップスポイラーにより、空気の流れをコントロールして、クーペとほぼ同等のダウンフォースも確保しているという。ソフトトップは8層構造で、当日は40度近い季節外れの猛暑だったにもかかわらず、室内側に触れてもまったく熱くなかった。

開閉時間はオープン時が14秒、クローズ時が16秒で、約50km/h以下なら走行中でも作動可能。クルマから2m以内の位置であれば、リモコンを使って開閉することもできるという。

コンバーチブルとして、そういう性能や機能や使い勝手も確かに重要だけれど、DBSスーパーレッジェーラ ヴォランテの屋根を開け放ち、V12サウンドを浴びながらステアリングを切っているときの爽快感は、マット・ベッカーのような腕利きエンジニアの丁寧で妥協のない仕事の上に成り立っているのだとあらためて感じた。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

【SPECIFICATIONS】

アストンマーティン DBS スーパーレッジェーラ ヴォランテ

ボディサイズ:全長4715 全幅2145(ミラー含む) 全高1295mm
ホイールベース:2805mm
トレッド:前1665 後1645mm
乾燥重量:1863kg
前後重量配分:50:50
エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ
総排気量:5204cc
圧縮比:9.3
最高出力:533kW(725ps)/6500rpm
最大トルク:900Nm/1800 – 5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
ステアリング形式:電動パワーステアリング
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセミラック)
ディスク径:前410 後360mm
タイヤサイズ:前265/35ZR21 後305/30ZR21

最高速度:340km/h
0 – 100km/h加速:3.6秒
CO2排出量(NEDC):295g/km
燃料消費料(WLTP):14.0 L/100km

車両本体価格:3727万円(消費税8%込み)

(GENROQ Web編集部)

この記事もよく読まれています

あなたにおすすめの記事