アストンマーティン ラピード AMR 試乗! 最後の自然吸気V12エンジンを積む孤高の4ドアサルーン

ASTON MARTIN RAPIDE AMR

アストンマーティン ラピード AMR

EV時代を目前にした「ラピード」最後の章

210台目にして最後の「ラピードAMR」が今年後半アストンマーティンのゲイドン・ファクトリーからラインオフするとき・・・。それは同社の4ドア・スーパーサルーンの生産終了というだけでなく、自然吸気アストンマーティンの終焉を意味する。

今後はターボ過給とハイブリッドのパワートレインがセンターステージと最前線に進み、バッテリーパックとモーターを搭載したEVモデルをもったラゴンダ・ブランドが復活する。ドイツ生まれの5.9リッターV型12気筒エンジンが安住できる場所はもはやない。偉大なエンジンがまたひとつリタイアに追い込まれるのだ。

ラピードSが2013年に導入されて以降、生産ラインから人知れず去ったと思った愛好家も一部にはいたようだが、そうではない。確かにアストン唯一の4ドアモデルは、ここしばらくのところ、常に生産ラインに乗っていたわけではないが、実は短い期間ながらラインから外れていた時期がある。その間、ラピードがアストンの電動化戦略のテストベッドになると発表になった。具体的には、ラピードEという形で人々の前に姿を現したのだ。

かくして155名に上るラピードEの顧客が今から2年後と目される純EV生産型ラゴンダのデビューに先行して、テストプログラムの一端を担うことになる。

普遍を貫いたラピード

今度こそは本当の終わりだ。ラピードAMRは偉大なるオールドスクールV12アストンの最後のモデルである。

最後の最後になって、ライバルのポルシェ・パナメーラに一矢報いることになったのは、筆者にとって悪い気分ではない。パナメーラとラピードは10年ほど前、ほぼ同時にショールームに現れた。パナメーラはその後、多彩な派生モデルを提供して幅広いカスタマーを獲得、地球規模で販売されるようになって今にいたる。

一方のラピードは最初のアプローチをずっと守り続けた。ターゲットに据えたのは、ポルシェでは平凡過ぎるし、さりとてベントレーのフライング スパーでは魂を揺さぶられないという顧客層だった。

これまでずっとそのアプローチは変わっていないし、最後の日まで変わらない。ライバルとは異質の、ほかでは代役が務まらないクルマである。そんなラピードのファイナルランとなるAMRは、レーシング・アストンのDNAをロードカーに注入したモデル。DB11 AMRを試乗した経験から判断するなら、通を唸らせる1台に仕上がっているはずだ。

100%ナチュラルな603ps&630Nm

V12エンジンの変更はミニマムで、大型吸気マニフォールドと、ヴァンキッシュの最終版であるヴァンキッシュS用に開発されたデュアルインレットランナーが採用されたことのみ。冷却系もヴァンキッシュS用を流用している。4本出しエンドパイプと、エンジンおよび8速ATを司るマッピングはラピードAMR専用となる。これらの相乗効果により、最高出力はラピードS比で45ps増しの603psに達する。最大トルクは630Nmだ。

この数値に不足があろうはずもなく、ラピードの最終エディションはこれまでにも増して息を呑むような性能を発揮する。始動させた瞬間、無意味な咆哮を上げるエンジンとは違い、V12が発するサウンドは100%ナチュラルかつオーガニックだ。

アイドリング中のV12は、成熟した洗練性とフレッシュな活力との絶妙なバランスポイントを突く。とかくハイチューンド・エンジンにありがちな低回転でのもどかしさは一切なく、スロットル開度が大きくなるに連れてサウンドは魅力を増していく。

反時計回りのレブカウンターの針は素晴らしい勢いで上方へ駆け上がりつつ、前方の12気筒オーケストラの指揮を執る。サウンドはAMRのパフォーマンスに相応しく、重層的な管弦楽はドライバーを陶酔させる。そしてラピードAMRは1990kgという空車重量にまるで似つかわしくないペースでスピードを上げていく。

ライムグリーンのストライプとブレーキキャリパーで彩られたラピードAMRは、0-100km/hを4.4秒で加速する。330km/hの最高速度はヘビーウェイト4ドア・サルーンとしては常軌を逸していると言っても過言ではない。

絶対的な数値もさることながら、この日の試乗から判断するなら、ラピードが最良の面を発揮するクルージングスピードはおよそ260km/h、道路環境さえ整っていれば320km/hを長時間保って走ることも射程範囲内にあると思えた。

テキストブックに書いてある空力理論を通り一遍に当てはめただけでは、こうした途方もないスピードを実現するにはおぼつかない。そこでAMRのデザインチームは高速走行時のリフトを低減することを目標に据え、独自の作業に取り組んだ。こうして出来上がったのが、専用のフロントスポイラー、リヤディフューザー、トランリッド上のスポイラー、そして深いサイドスカートだ。

ドライバーの期待を大きく上回るレスポンス

ラピードは生まれながらに美しいクルマで、その美は10年の歳月を経るに従い、優雅に熟成度を増していった。こうしたエアロパーツは、ラピード本来の美を少しばかりスポイルしたことは確かだ。しかし純粋なスピードがそれを補って余りある。CFRP製アドオンはラピードAMRには不可欠であって、私はデザインチームの努力は充分報われたと思っている。なお、ボンネットもやはりCFRP製だ。

足回りのチューンも完璧で、部外者が異論を挟む余地がない。3ウェイのアダプティブダンパーは、ラピードSからのキャリーオーバーだが、ボディコントロールの向上を主眼に置いて、独自のセッティングを施されている。

その効果は目覚ましく、ラピードAMRは絶妙のロール量を伴って、コーナーのエイペックスに向かって飛び込んで行く。私は運転中、かくも大柄なクルマが、かくも高度なビークルダイナミクスを実現したことに驚嘆した。

ラピードのビークルダイナミクスはこれまでも賞賛を浴びてきたが、今回のチューンにより新たな高みに達した。ダイレクトそのもののステアリングを切って、21インチのミシュラン・パイロット・スーパースポーツをコーナーに向けた瞬間、クルマからメッセージが伝わってくる。乗り手の自信を鼓舞するメッセージだ。

それだけではない。ターンインから始まり脱出までの旋回プロセス全般にわたり、このAMRの最新作はドライバーの期待を大きく上回るレスポンスを示し、コーナリングスピードを高めるほどに充実感を味わえる。

私は心のなかで、アストンのボス、アンディ・パーマーに向かって「頼むからラピードAMRの製造を続けてくれ!」と叫んでいた。

絶対的なスピードと、本来備わっている良好なバランスが渾然一体となって、ドライバーを病みつきにする。だから純粋に楽しむために、これまで走ったことのない道、ルート、コーナーを探すことになる。クルマの操縦を愛するドライバーが通常ロータス・エリーゼで味わう世界へと、この2トン弱の4ドア・サルーンは誘う。

ラピードAMRがクイックなレーンチェンジに見事対応する様は衝撃的だ。多くのスーパーサルーンにとって、これはアキレス腱とも言うべき不得意科目。大抵のクルマがふらつき、のたうつような場面でも、ラピードAMRはシャープなナイフのごとく、クリーンに進路を切り開いていく。

最新のライバルにも引けを取らない

ほぼ10年前に生産が始まったラピードだが、このAMRのレスポンスは、最新のライバルの多くと比べても優れている。

フロントに400mm径カーボンセラミック製ディスクと6ピストン・キャリパー、リヤは360mm径ディスクと4ピストン・キャリパーの組み合わせをもつブレーキは、オーナーが仲間うちにF1並みのハイテクを備えたロードカーだと自慢できる恰好のトピック。このAMRの動力性能には、このスペックのブレーキが実際に必須である。

ラピードAMRは、本来ならホットハッチの独壇場である、自然がつくったコーナーが連続する2級道を、水を得た魚のように駆け抜ける。3033万1000円(日本での価格)のプライスタグを下げるアストンマーティンのスーパーサルーンが、快適性とスムーズな乗り味をある程度犠牲にしてまで、操縦の高揚感とスリルを優先させたことに当惑する向きもいるかもしれない。

しかし、あらゆる項目を80点で満たすクルマは、とかく記憶に残りにくい。それなりに期待に沿った出来映えではあっても、乗ったときの印象が薄いため、記憶からスリップアウトしてしまうのだ。

今なら間に合う、ラピードAMR

ラピードAMRはそういうクルマとは違う。確かにラピードが生まれた10年前は、今と比べるとマルチタレントというよりは、方向性をひとつに絞ったクルマ造りができた時代、クルマの個性を明らかに表現できる時代だった。では、そんな時代は本当に終わってしまったのだろうか? このままでいいのだろうか?

私の見解を申し上げよう。今日、自動車メーカーの多くは、地球上のあらゆる市場で、万人にアピールするクルマを造ることに社の命運を賭けている。その結果、しばしばオリジナルモデルの個性を水で薄めた新型車が生まれる。それが皮肉にも、オリジナルモデルのオーナーはもちろん、新規顧客にとっても魅力のないクルマになってしまう例が多々あるように思える。

ラピードAMRにそれは当てはまらない。確かに固有の欠点はあるかもしれない。例えば、狭い後席やインフォテインメントシステムは褒められたものではない。しかし私なら、そんな欠点は簡単に許すことができる。

ラピードAMRに乗って出かけるドライブは、それ自体が人生のアドベンチャーだからだ。ラピードAMRとは、そうした資質をもって賞賛されるべきクルマである。私たちは、こういうクルマが永遠になくなった後になって初めて気づくに違いない。ああ、あのクルマがなくなってしまって、寂しいと・・・。

しかし、幸いにも日本ではまだ入手できる枠が残っているという。この機会を逃したら、もう二度と手に入らないかもしれない。何しろ最後の自然吸気V12エンジンを積んだアストンマーティンなのだから・・・。

TRANSLATION/相原俊樹(Toshiki AIHARA)

【SPECIFICATIONS】
アストンマーティン ラピード AMR

ボディサイズ:全長5019 全幅1929 全高1350mm
ホイールベース:2989mm
乾燥重量:1990kg
エンジン:V型12気筒DOHC48バルブ(自然吸気)
総排気量:5935cc
最高出力:444kW(603ps)/6500rpm
最大トルク:630Nm/5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセミラック)
ローター径:前400 後360mm
タイヤサイズ:前245/35ZR21 後295/30ZR21
最高速度:330km/h
0 – 100km/h加速:4.4秒
車両本体価格:3033万1000円(税込)

(GENROQ Web編集部)

この記事もよく読まれています

あなたにおすすめの記事