なぜレッドブルと組んだのか? アストンマーティンの副社長が新型ヴァンキッシュの秘密を語る

サイモン・スプロール副社長にインタビュー

アストンマーティンのマーケティング部門を統括するサイモン・スプロールは、私の目の前に1枚のメモ用紙を広げてみせた。

「これが今年のジュネーブショーに出展したアストンマーティン・ブースのレイアウトです」とスプロール。

「向かっていちばん左にレッドブル・レーシングのF1マシン、次がヴァルキリーのサーキット走行専用モデル、続いてヴァルキリーのロードカー、AM-RB003、そしてヴァンキッシュです。これこそ、私たちがやりたかったことでした」

レッドブル・レーシングの開発責任者であるエイドリアン・ニューウィーがデザインしたヴァルキリーはF1マシンに迫るパフォーマンスの“ハイパーカー”で、ロードカーとサーキット走行専用モデル(ヴァルキリー AMR pro)の2タイプを開発中。AM-RB003はヴァルキリーに次ぐパフォーマンスを備えたスーパースポーツカーで、ライバルはマクラーレン・セナやラ フェラーリと目される。

最後のヴァンキッシュはアストンマーティンのフラッグシップ・グランドツアラーに与えられる伝統的なモデル名だが、次世代型はエンジンをミッドシップするスーパースポーツカーに生まれ変わることが今年のジュネーブショーで予告された。

ヴァンキッシュがF1とヴァルキリーに並んだ意味

「私たちがヴァンキッシュで戦いを挑むのは、世界でベストのスポーツカーメーカーに数え上げられるフェラーリ、マクラーレン、そしてランボルギーニです」 と、スプロールが続ける。

「ところが、これまでアストンマーティンがミッドシップのスポーツカーを販売したことはありません。そこで、私たちは今年のジュネーブショーで次のようなメッセージを発信することにしました。『アストンマーティンはヴァルキリーや003を発売しようとしている。しかもテストドライバーを務めるのは(元マクラーレン・オートモーティブの)クリス・グッドウィンで、われわれのパートナーであるレッドブル・レーシングはF1で数々の成功を収めてきた。そうしたF1でも通用するテクノロジーが次のヴァンキッシュには生かされている・・・』 これを知って多くのお客様が安心し、ヴァンキッシュに自信を抱いてくださることを期待しています」

ヴァルキリーの存在があまりに大きすぎたため、003やヴァンキッシュはその付け足し程度にしか捉えていなかった私は、これを聞いて自らの不明を大いに恥じた。

彼らの方針は、実はアンディ・パーマーCEOが策定した“セカンド・センチュリー・プラン”にもしっかりと描かれている。この計画によれば、アストンマーティンは2016年から2022年まで毎年1台、合計7台の主要モデルをリリースし、以降はこの7台を順にリニューアルすることになる。具体的にいえば、2016年のDB11に始まり、2017年はヴァンテージ、2018年はDBSスーパーレッジェーラを発売。今年は初のSUVであるDBX、2020年には次世代ヴァンキッシュをリリースし、2021年と2022年はラゴンダ・ブランドからEVのSUVとサルーンが誕生する。

お気づきだろうか? ここにはヴァルキリーも003もなく、ミッドシップ・スポーツカーで含まれているのはヴァンキッシュのみ。つまり、ヴァンキッシュこそミッドシップ計画の出発点だったのだ。

F1のテクノロジーをヴァンキッシュに投入

「ただし、ヴァンキッシュを突然リリースするわけにはいきませんでした」とスプロール。

「ヴァンキッシュがミッドシップ・スポーツカーとして発売されると知った顧客は『この分野におけるアストンマーティンの実績と経験は?』と訊ねたことでしょう。だからこそ、ヴァンキッシュを発表するまでにヴァルキリーと003をローンチすることが重要だったのです」

しかも、アストンマーティンのパートナーであるレッドブル・レーシングはF1グランプリでフェラーリやマクラーレンと対峙している。もしもレッドブルが彼らに勝てば、それはアストンマーティンのバリューをさらに高めることに直結する。

「今年の開幕戦オーストラリアGPでは、レッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペンがメルセデスAMGのふたりに続く3位でフィニッシュしました。つまり、フェラーリを打ち負かしたのです。これは私たちにとっても嬉しいことでした。おそらく既存のお客様、それに今後アストンマーティンを購入されるお客様は、この結果を誇りに思ってくださることでしょう」

言われてみれば、レッドブル・レーシングはアストンマーティンにとって理想的なパートナーである。現在、F1でタイトル争いを演じられるのはメルセデスAMG、フェラーリ、レッドブル・レーシングの3チームのみ。しかし、メルセデスAMGとフェラーリは自動車メーカー直系チームのため、アストンマーティンと手を携えるわけにはいかない。くわえて、レッドブル・レーシングを技術面で支えるレッドブル・アドバンスド・テクノロジーズにはF1マシンでもドライバビリティを重視する土壌があり、これがヴァルキリーを始めとするロードカーの開発でも大きな役割を果たしているのだ。

そんなレッドブル・レーシングとパートナーシップを組むというアイデアは、いったい誰が考えついたものなのか? スプロールに訊ねた。

「もともと日産自動車に務めていたアンディと私は、アンディが2014年末に、そして私はその1ヵ月遅れでアストンマーティンに移籍しました。日産時代、アンディと私はインフィニティのメンバーとしてレッドブルへのスポンサーシップに関わっており、この関係が2015年に終わることを知っていました。インフィニティが離れれば、レッドブル・レーシングに自動車メーカーのスポンサーがなくなる。そこで私たちは2016年からレッドブルのスポンサーを務めることにしたのです」

レッドブル・レーシングは理想的なパートナー

それ以外にもレッドブル・レーシングとアストンマーティンには結びつくべき理由があった。

「アストンマーティンのゲイドンからレッドブル・レーシングのあるミルトンキーンズまでクルマで1時間ほど。おかげでメンタリティが似ていますし、取り引きしているサプライヤーも地域的に多く重なっています。(レッドブル・レーシング代表の)クリスチャン・ホーナーやエイドリアン・ニューウィーとは、私もアンディも良好な関係を築いています。アストンマーティンにとってまさに理想的なパートナーといえるでしょう」

アストンマーティンの現状に、スプロールは大いに自信を抱いているようだ。

「アストンマーティンは、まだそのポテンシャルを示し始めたばかりです。世界最大のラグジュアリー・マーケットはアメリカです。今後もそれは変わらないでしょう。いっぽうで、アメリカにおけるアストンマーティンはいまのところ知名度があまり高くなく、まだ成長過程にあります。つまり、これからも大きな伸びしろが期待できるのです。アストンマーティンが未来について自信を抱いているのは、たくさんの理由があるからといって間違いないでしょう」

Simon Sproule

サイモン・スプロール

イギリス・ハンプシャー州に生まれ、ロンドン大学で地理学の理学士号を取得。1992年にフォードモーターカンパニーでキャリアをスタートし、フォード傘下にあったジャガー、アストンマーティン、ランドローバーを担当する。 その後、2003年にコミュニケーションおよびコーポレートコミュニケーション担当副社長として北米日産に入社。日産自動車のグローバル本社(主に日本)にてエグゼクティブマーケティングコミュニケーションの職を歴任し、2014年11月からAston Martin Lagondaの副社長兼最高マーケティング責任者を務める。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)

(GENROQ Web編集部)

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