【東京オートサロン2019】アストンマーティン「AMR」とは何か? チーフエンジニアのマット・ベッカー氏に訊く。

ASTON MARTIN AMR

アストンマーティン AMR

東京オートサロンに初出展。

今年もさまざまなトピックスで盛り上がりを見せている「東京オートサロン(1月13日まで開催)」。その中でもとりわけ注目を集めたブースといえるのが、今回が初出展となったアストンマーティンだ。アストンマーティン・ブースのコンセプトとされていたのは、同社が伝統とするモータースポーツ活動で培われたテクノロジーからインスピレーションを得た、サブブランドの「AMR」を東京オートサロンを通じて日本のマーケットで改めて強くアピールすること。ブースにはAMRブランドの代表作ともいえる「DB11 AMR」のほか、こちらも将来的にはAMRモデルの誕生が期待される、ピュアスポーツの新型「ヴァンテージ」の2台を展示。さらに両モデルの開発に携わった、ビークル・エンジニアリング部門のチーフ・エンジニア、マット・ベッカー氏が来日した。今回はそのベッカー氏にインタビューする機会が与えられた。

「東京オートサロンを訪れるのは今回が初めてのことです。想像以上にエキサイティングなショーだというのが第一印象ですね。チューニングメーカーの出展があるという点では、例えば欧州のジュネーブ・ショーなどとも似たようなところがあるのかもしれませんが、ジュネーブの主役はやはりプロダクションカーです。AMRはあくまでも主流となるアストンマーティンの、さらに延長線上にあるものとして考えられるブランドですから、東京オートサロンのようなイベントにアストンマーティンAMRを初出展できたことを大変に嬉しく思っています」

AMRとはレースに由来するサブブランド。

AMRというアストンマーティンのサブブランドが、日本でこれだけ多くのゲストの前で紹介されるのは、もちろん今回が初めてのことになる。AMRブランドのコンセプトとは、はたしてどのように説明されるものなのだろうか。

「簡単に説明するのは難しいのですが、すでにレースの世界では広く知られていたAMRという名前を継承することで、レース由来のテクノロジーにインスピレーションを得た、そしてアストンマーティンのメインストリームとなるモデルよりも、スポーティなバージョンと考えていただければよいと思います。例えばDB11の場合は、最初にV12モデルが誕生し、次にV8モデルが登場しました。このV8モデルの開発で学んだ多くのこと、そのノウハウを反映した究極のパフォーマンスをカスタマーに提供できないものかいうのが、実はDB11 AMR開発の始まりでした」

ドライバーの期待通りにアウトプットする。

「私がアストンマーティンの開発チームに加わった時、すでにDB11のV12モデルは開発の最終段階にあり、すでに私の意見を反映できるパートは限られていました。ですから実際にはV8モデル以降が私の仕事ということになります。その開発時に学んだこと、すなわちAMRに反映したことは、リアサブフレームの剛性向上、ダンパーとフロントアンチロールバーの特性、エンジンマウントの剛性を変更したことです。異なるシャシーモードでの差別化、つまりセッティングの違いを感じやすくもしています。それはDB11のGTとしての特性をキープしながら、AMRのコンセプトたるスポーティ性を向上させたかったからです。リアの剛性を高めたことで、コーナリング時におけるフロントの応答性を高めることができたのも大きな収穫でした。DB11 AMRは、車体の中心線を軸として前後のサスペンションがバランスよくロールするようにセッティングされていますから、それがドライバーに大きな安心感を提供します。ドライバーのインプットが期待通りのアウトプットを生むように・・・。それは私が開発時によく使う言葉でもあります」

すべてのラインアップがAMRの対象に。

昨年のジュネーブ・ショーで、アストンマーティンのアンディ・パーマーCEOにインタビューする機会を得た時、氏はアストンマーティンのカスタマーには7タイプの志向性があり、したがって我々には同様に7タイプのモデルをラインナップする必要があるのだと語ってくれた。はたしてAMRは、これらすべてのモデルに対応するというのか。

「答えはイエスということになるでしょう。それはもちろん現在開発が進んでいるSUVのDBXも同様です。アストンマーティンにはさまざまな開発プロジェクトがある中で、DBXは非常に重要な商品であり、私も多くのベンチマーキングをしているので、DBXにとって何が重要なのかは十分に理解しているつもりです。直接のライバルとなるのは、やはりポルシェのカイエン・ターボ。AMRモデルでは、先ほどお話ししたインプットとアウトプットとの理想的な関係を必ず実現するつもりです。SUVの場合には、まずは大きく重いという物理的なハンデがありますから、シャシーを最適化するためには、さまざまなツールを使わなければなりません。DBXでは3チャンバー方式のエアサスペンション、アクティブ・ロールコントロール、アクティブ・センターデファレンシャル、そして前後のエレクトリック・デファレンシャルなどを搭載することになりますが、問題はそれらをいかに上手く統合させるかにあります。逆に考えれば、それによって車両のキャラクターをある程度は決定することも可能だということにもなります」

AMRによる今後のモータースポーツ活動は?

AMRは、そもそもレースの世界でその名前を世界に轟かせた名前だと最初に紹介した。AMRによるモータースポーツ活動は、2019年はさらに積極的なものになるだろうか?

「ヴァンテージのGTE、GT3、GT4をプロドライブと共同で開発しており、2019年から本格的にレースに投じられていくでしょう。プロドライブは、もともとヴァンテージの開発にかかわっていましたので、その基本的な設計を非常に良く理解しておりますし、レースカー造りのノウハウも多く持っています。先日はドライバーのダレン・ターナーから従来型のヴァンテージGTEよりも、新型のGTEははるかに運転しやすい、とりわけ車体の剛性やサスペンションマウント部の剛性が大幅に向上しているので、挙動が非常に掴みやすいというポジティブなコメントをもらいました。AMRはレースにおいても、そしてロードカーの世界においても、これからさらに魅力的で刺激的な話題をカスタマーに提供していくことでしょう」

間もなく到来する「EV」に対して。

最後にベッカー氏に、将来的にはスポーツカーでもさまざまなモデルが誕生するだろうと予想される、EVについての個人的な印象を尋ねてみた。はたしてEVの時代が訪れても、スポーツカーの魅力は変わらないのかを、アストンマーティン、そしてAMRの開発チームを率いるキーマンに聞いてみた。

「個人的にドライブしてみたEVの中には、非常にエキサイティングなモデルもありました。EVはとにかく最大トルクが一瞬で発揮されます。ただそのトルクで、いかに車両との一体感を感じることができるのか。そこがスポーツカーをEV化するには最も難しいテーマになるような印象があります。あとはスポーツカーには必要不可欠なサウンドの問題です。そのサウンドがなくなった分、今度はこれまで感じなかったノイズを感じるようになります。シャシーのチューニングにも、これまでとは別の難しさが出てくるのではないでしょうか」

チーフエンジニアとして手腕を振るうマット・ベッカー氏は、時代の要求とともにドライバーの満足度を高めるために何をすべきかを日々考えている。それは間もなくはじまるアストンマーティンのEV戦略でも変わりはないということだろう。AMRの成長とともに、こちらも実に楽しみである。

REPORT/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)

PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)

(GENROQ Web編集部)

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