【特集】ポルシェ流「パワーへのメソッド」。こうしてニューモデルは誕生する。

「耐えうる」という事実を可能な限り短時間で立証

ポルシェは自社技術を知らしめるのに積極的な企業で、ジャーナリストを集めて最新のテクノロジーを解説する機会をしばしば設けている。世間の注目を集める華やかな新デバイスは、こうして私たちにも紹介されるわけだが、本稿が扱うのは、開発段階での様々なテスト方法。ポルシェが舞台裏で地道な作業をいかに行っているかを、ここまで詳しく述べた文書を紹介するのは、我が国ではこれが初めてかもしれない。

なお、ここでの主役は「ポルシェ・エンジニアリング」で、同社はポルシェ傘下にあってコンセプトからシリーズ生産まで製品開発のあらゆる段階を請け負うエンジニアリングサービスプロバイダーだ。従って、文中の「顧客」とは、同社にこうしたサービスを委託する企業を指す。以降、ポルシェ自身が展開する骨太な技術論を辿って行こう。

モータースポーツを基本に設計した車両では、パワートレインへの要求がとりわけ厳しい。しかもハードルは常に高くなっている。現代のPHEVでは限られた空間に据え付けるべきコンポーネントの数は増える一方で、コンポーネントは信頼性を減ずることなく、さらなるパワーを求められている。

新しい素材や製造方法が発見されて、パワー密度を高める一助となるのに伴い、新素材および製造方法を使用可能とする承認ツールとして、テストの重要性が増している。テストに合格したものだけが次世代車両の担い手として認められる。

こうしたテーマにポルシェ・エンジニアリングの技術陣は果敢にチャレンジする。テストでは、日々の使用で代表的な負荷を決め、こうした負荷を各々のコンポーネントおよびアッセンブリーに掛けるシナリオを考案する。相互に関連するすべての機能は負荷に耐えることが条件で、テストの目的は「耐えうる」という事実を可能な限り短時間で立証することにある。そのために、エンジニアはシミュレーションからエンジンベンチまで、あらゆる計測機器を動員する。

出発点「シミュレーション」

シミュレーションでは運転環境での挙動を基本にした、実態の裏付けがあるドライビングモデル、ドライバー、そして車両を用いる。ポルシェ・エンジニアリングが使う現代のコンピュータは、過去数10年に蓄えた潤沢なデータを所蔵する。

コンピュータにより、極めて複雑なOEM要求が信頼の置ける形で示される。ひとつのパワートレインを種々の車両に使用する場合の能力などはその一例で、この場合、様々な製品に応用されるパワートレインのコンポーネントに掛かる負荷プロフィール(load profiles)に関して、充分な詳細を明らかにするには、load collective(負荷集合)と呼ばれるものをシミュレートすることが不可欠である。

負荷プロフィールは必ず、強度、重量、コストといった、相反する要素を生み出す。これら相反要素は第2段階に進む前に解決する必要がある。第2段階では様々な負荷プロフィールから設計集合(design collectives)を引き出す。その設計集合は、モジュール(=構成単位)を形成するユニットの外寸を決定するのに用いられる。

このプロセスを次のプロセスに適用すること、それ自体が車両の運転および快適特性をモディファイし洗練する手段ゆえ、極めてダイナミックである。これら運転特性に関する変更(モディファイ・洗練)は、コンポーネントに掛かる圧力を大幅に増やし、当初の設計で想定していたfailure limit(=故障限界)を超える場合がある。ここでの発見は、コンポーネント負荷シミュレーションにフィードバックされ、次なるアプリケーションデータを用いて負荷集合を算出する。コンポーネントの現物をまったく使わずして、プロセスを反復することにより、プロセスの途中で欠落を生じることなく負荷集合と設計集合とを比較し、必要なモディフィケーションを明らかにする。

最大負荷をかける「エンジンベンチテスト」

こうしてできた最初の試作コンポーネントはエンジンベンチテストに掛ける。ここでは通常、試作コンポーネントは、様々な要素を高回転時で検証する短期テストに置かれる。すなわち潤滑油の供給、ベアリング負荷、tooth-flank load(=歯車の側面に掛かる負荷)、tooth-root load(=歯車の根元に掛かる負荷)が、特定の段階を踏みつつコンポーネント破損にいたるまで設計故障限界をテストする。この種のテストは当該のコンポーネントにのみ有効で、限られた情報しかもたらさない。しかし一定の設計が実際に通用するかどうかがわかる。

さらに開発が進むと、フルユニットが試用できるようになる。耐久サイクルテストと呼ばれるものがこの目的に特に適していることがすでに実証されている。比較的高回転で負荷を掛けたテストを行うと、ユニットのサブコンポーネントに関して信頼性の高いデータがもたらされる。テスト中、サブコンポーネントはひとつのユニットとして組み立てられ、内燃エンジン、駆動モーター、トランスミッション、コントロールユニット、プロペラシャフト、ハーフシャフトになる。路面とのタイヤコンタクトは消費単位を用いてシミュレートする。

エンジンおよびトランスミッションを実際にコントロールするユニットを用いることで、エンジニアはパワートレインと直接関連したアプリケーションデータセットを検証できる。ここでもやはりゴールは、シミュレートされたパワートレイン負荷下で故障限界を見極めることである。

デファレンシャルカプリングをインテリジェントなオンライン上でコントロールすることによって、確実に前後アクスルへの適正な駆動トルク配分が行える。テストがさらに進むと、勾配抵抗(gradient resistance)をオンライン上で調整することにより、摩擦変動ないしはコンポーネントの劣化ないしは潤滑オイルに起因する、駆動パワーないしはシステム効率の変化といった可変要素を補正できる。結果として試作車両に初めて搭載する前から、パワートレインは高い熟成度に到達する。

リアルタイムテスト

すべてのパワートレインコンポーネントの劣化をもっとも正確に表現するには、車両テストスタンド上にてリアルタイムテストを行う。この方法は極めて長時間を要するが、すべてのコンポーネントに関して極めて信頼性の高いデータをもたらす。リアルタイムテストは車両パラメーターを組み込んだインテリジェントドライバーモデルをベースにするか、あるいはトライアル車両で計測された実際のドライブデータをベースにする。

リアルタイムテストは早いペースでは進行しないが、ドライバーの可変要素と、acceptance trial(=機構が消費者に受け入れられるよう適正に機能するかのトライアル)という外的条件を総体として考慮に入れられる。テストではセッティング可変要素として車速とアウトプットスピードを用いる。これらの値は直接、速度として設定できるし、あるいは運転プロフィールを通して人工的にも設定できる。

その目的は設定した目標から、考えられる最小の偏差にて起こりうるエラーの発生を最小化することにある。走行抵抗をオンライン上で調整・補正することはできないが、インテリジェントドライバーモデルによって動的リアルタイムテストが容易化される。インテリジェントドライバーモデルのドライバーロジックがスピードプロフィールを模倣するのか、許容された速度域の特定事項を満たす範囲内で自由に運転するかを自動で決める。

ロードテストと広範な計測作業

パワートレインの開発中も全体の車両設計は継続する。結果としてテストベンチ上でのリアルタイムテストは、テスト車両からの計測データで補完される。ロードテストは実際の交通に混ざって公道でもナルドのような専用テスト設備でも行う。車両計測を行う際、ポルシェ・エンジニアリングは、1万5000kmにわたる日々の運転で、代表的なパワートレイン負荷に関して信頼の置ける、充分な統計を取ることを目的に置く。

テスト中、テストドライバーはドライ路面のみを走る。ドライコンディションが車両に対してもっとも物理的ストレスが大きいからだ。計測は、ルート構成、運転スタイル、積み荷などあらゆる基本的な可変要素を勘案して行う。その後、エンジニアは計測した値を評価し、顧客が使用するプロフィールに正確に照準の合った負荷集合を抽出する。

「計測機器」頑丈で感度よく

ロードテスト用の計測機器は日常的な運転にも酷使による極端な負荷(エンジニアが「パフォーマンススタート」と呼ぶものはその一例)にも左右されないように設計されている。3週間、1万5000kmにわたり車両作動から計測データを手に入れるには、システムスタートアップ、redundancy(=冗長性。障害に備えて機材・回線を複数用意して待機させる)、情報蓄積キャパシティの点で格別の信頼性が求められる。

負荷集合計測でまず焦点を絞るのはホイールのトルクバリューである。ギヤレシオとホイールのトルクバリューにより、パワートレインが晒されている負荷と、これがパワートレインコンポーネントにどのような損傷を及ぼすかが正確に決定できる。この計測を困難にしているのは、1) 回転するパーツ(スライディングコンタクトかテレメトリーでしか計測できない)、2) 同時にあらゆる方向に動くパワートレイン、3) 温度の影響(排気系、トランスミッション、エンジンからの放熱)、4) 電磁波障害(EMC)、5) 天候の影響である。

ここで使う計測機器をエンジニアは計測フランジと呼ぶ。高い剛性ゆえ、計測フランジは酷使による極端な負荷(パフォーマンススタートやミュースプリット)への耐性が高い。

ロードテストに使う計測機器

・X軸、 Y軸、 Z軸で生じる加速を計測する加速センサー
・経度と緯度、標高、勾配、カーブ曲率と半径を用いて位置測定するGPS受信機
・外気温、コンポーネント温度、油温を測る温度計

大きなデータボリューム

デジタル計測値は、おもに車載bus(CPUと他の装置を接続するデータ伝送路)システムを介してコントロールユニット間で交換されるコミュニケーション信号を表す。ほんの数年前までは、少数のCANシステムがあれば充分なデータコミュニケーションができたのだが、現在ではFlexRayシステムを追加で使っている。

FlexRayアーキテクチャは大容量データを通信できる。計測シーケンスのシグナルスコープは通常100〜600シグナルで、500ヘルツ(トルク)から1ヘルツ(温度)の間で計測される。

データを記録するのにポルシェ・エンジニアリングは、大容量データと高速通信用に設計されたパワフルなデータロガーを採用している。トランスミッションの開発には追加の通信プロトコルを要する(XCPやCCPなど)。

システムは、すべてのアンプとセンサーブロックを働かせる容量を持ったセンター電力供給システムを制御するセンタースイッチでスタートする。これはシステムコンポーネントの一部が不慮の作動不能状態に陥ったことに起因する計測エラーを防ぐためである。ひとつの計測が完了した後にも同じことが当てはまる。どのコンポーネントであれ不慮にスイッチオンのままでいると、次の計測が始まる前に車両のバッテリーを消耗させるからだ。

正確なルートトラッキング

計測中のデータ損失の危険性を減らすため、各々のルートには特定のセービング(=救済)ポイントがあり、ドライバーにはここを必ず通過することを求められる。こうすることにより、セービングポイントの中間地点で計測機器に問題が発生しても、ルート全体をやりなおすのではなく、当該の区間だけを繰り返せばよい。ただしこの方法でも各々の計測区間から成り立つ複数のファイルができることになり、事後の段階で1つに統合することが必要になる。

計測データとルートタイプを関連させるにはルート信号を用いる。地図上のルートならGPSがルート信号になる。もうひとつの方法は、追加の計測値(スピード、舵角、加速など)を用いてルート信号を生むことだ。これを複雑な過程を経て計算する。この方法だと高度にダイナミックな信号が生まれ、渋滞による停止時間や、都市部での運転も明確にプロセスできる。仮に前方が塞がれてドライバーが計画したのとは別のルートを強いられると、予定とは異なる計測データとなり、ほかと関連できなくなる。この場合でもこの方法なら予定したのと同様なルートタイプ(例えば、市街地、郊外の道路、ハイウェイ)を自動的に割り振ることができる。

計測データをプロセスする

計測の過程では、使用するシステムの性質上、多数の計測エラーが発生することがある。これらは計測データを顧客に手渡す前はもちろん、フォローアップ段階で修正する必要がある。

これら計測エラーはトルクを記録するのに用いる計測フランジとシャフトの欠陥によることがもっとも多い。計測エラーにはこれ以外にも、トルクオフセット、目盛りが複段数飛ぶ、唐突に飛び上がる、流れる、「no-values」の表示などがある。未加工のデータ量が膨大なため、こうした計測エラーを手作業で修正するには数か月を要する。

従って、ポルシェ・エンジニアリングでは、この種のエラーの自動検知を使っている。使用できないデータはサーチエンジンが除去し、データセットをマニュアルで検証する必要がない。その目的はただひとつ。車両アッセンブリーで極めて重要な部分を設計し、コンフィギュレーションするのに必要な信頼の置けるデータを可能な限り早く、効率的に供給することにある。ポルシェ・エンジニアリングはこの作業に伴う重い責任をフルに認識しており、あらゆるプロジェクトに自信をもって取り組む。

将来の展望

ポルシェ・エンジニアリングは、明日の自動車テクノロジーから少なくとも一歩先んじたテストシナリオを維持すべく、時間とリソースを投入している。運転負荷をより広い範囲で、より多彩な細部を描写するシミュレーションをプラグラムできるのも当社の特質だ。

自動運転は将来、パワートレインの構成に大きな影響を及ぼし、パワートレインへの負荷はさらに厳しくなるだろう。ここにテーラーメードの軽量設計による負荷軽減といった可能性が拓けてくる。当社の最新テストではこうした可能性も考慮に入れている。さらには将来の人間の行動がテストのパラメーターにいかなる変化をもたらすかも考慮に入れている。

TEXT/相原俊樹(Toshiki AIHARA)

(GENROQ Web編集部)

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