【TOPIC】アストンマーティンのハイパーカー「ヴァルキリー」に搭載されるV12エンジンを公表。

ASTON MARTIN VALKYRIE

アストンマーティン ヴァルキリー

今後を考えたからこそ「自然吸気 V12エンジン」。

これまで一部がベールに隠されていたアストンマーティン・ヴァルキリーに搭載されるV12エンジンの全容が明らかになった。コスワースとの共同開発によるこの新型V12は、内燃機関の究極となるパワーユニットだ。

「最初から自然吸気以外の選択肢は考慮外だった」とコスワースは言う。確かに過給器は今全盛期を迎え、重要なアドバンテージが多数あり、とりわけロードユースのエンジンではその効用が高い。しかしこの時代だからこそ、もっとも偉大なドライバーズカーには、魂を揺さぶるエモーショナルな資質が求められる。それには過給に一切頼らない、自然吸気の内燃エンジンが必須の条件だった。

6.5リッターV12の最高出力は1000bhp!

こうして絶対的な名機が誕生した。排気量6.5リッター、65度V12は、内燃エンジンに新たな基準を打ち立てた。最高パワー1000bhp(リッター当たり153.8bhp)を10500rpmで生み出す超高回転型。レブリミットはそこからさらに先の1万1100rpmという高みにある。ピークトルクは740Nm/7000rpm。

どれも自然吸気で、排ガス基準をクリアした公道用エンジンとしては前例のない数字ばかりだ。しかもこのV12にはハイブリットシステムを組み込む余地があり、数値はブーストアップされる。こちらの詳細についてはプロジェクトの進行に合わせて明らかになる模様。

エンジン単体重量は206kg

コスワースがF1で培ったノウハウが投入されたこのエンジンは単体重量に色濃く表れており、とりわけ同社が1990年代に製作した3リッターV10のF1ユニットからの影響が大きい。ヴァルキリーでは、エンジンが車両の重要なストレスメンバーとしても機能することを勘案すると、206kgの単体重量は驚異的と言うほかない。ちなみに3リッターのF1を6.5リッターに拡大すると仮定した場合、想定される重量は210kgだという。

エンジンブロック、シリンダーヘッド、オイルサンプ、カムカバーなど大型パーツは鋳造による。一方、これ以外の、エンジン内部の可動パーツはそのほとんどが金属の塊から機械加工されて完成品となる。チタン製コンロッドや、F1スペックに準じたピストンはその一例だ。

金属の塊から機械加工する工法により、各パーツに最適な素材を用いることができただけでなく、慣性質量をミニマムに抑え、強度を最大限に伸ばすことができた。

半年かけて製作されるクランクシャフト。

このV12はコスワースのクラフトマンが丹精を込めて造ったパーツの集積だが、その中から彼らの念入りな作業を端的に示す例として、クランクシャフトの製造過程を紹介したい。

素材は170mm径、長さ775mmのビレット。ビレットとは金属のソリッドな棒のことで、この場合は鋼鉄のバーを指す。まずはこれをラフな外形になるまで切削して熱処理にかける。次に最終的な形にまで加工して、もう一度熱処理。以降、順次目の細かいグラインダーにかけ、最後は鏡面に仕上げる。この製造工程のなかで、もとの鋼棒の80%が切削によりなくなる。1本製作するのにおよそ半年を費やすという。

こうして完成したクランクシャフトは驚くなかれ、アストンマーティンOne-77のクランクシャフト重量の半分に過ぎないという。One-77用もやはりコスワースの製品で、当時もっともパワフルな公道用自然吸気V12エンジンから発展的に開発した経緯があり、決して重い方ではなかったことを考えると、ヴァルキリー用がいかに軽量かがわかる。

要求の厳しい、ニューウェイ。

ここでコスワースのマネジングディレクター、ブルース・ウッドはこう語る。

「歴史を通じてもっとも象徴的な1台となるクルマに搭載する『自然吸気式V12』を製作して欲しい・・・、アストンマーティンからそういう依頼を受けて、私たちの意気は大いに高揚しました」

ウッドはヴァルキリーの設計には、エイドリアン・ニューウェイが参画していることに触れ、次のように続ける。

「私たちがかつて製造したF1が開発の指針になることはわかりましたが、ニューウェイが求めるスペックが非常に厳しいことも最初から予想していました。しかし、いざ実作業を始めると、パワー、重量、排ガス基準、耐久性などの諸要素を敵対させることなく並び立てるのは、これまでに経験したことのない大きなチャレンジだと思い知らされました」

アストンマーティン、レッドブル、コスワースの3社だから実現。

ウッドはアストンマーティン、レッドブル、コスワースの3社がクリアなビジョンをもってパートナーシップに臨んだことが成功へのカギを握ったと振り返る。

「かつてだれも見たことがない、公道用内燃エンジンができあがりました」

これを上回るエンジンなど出来るのだろうか・・・パーマーCEO、語る。

アストンマーティンラゴンダの社長兼グループCEOのアンディ・パーマーは次のように語る。

「血液に一滴でもガソリンが流れている人にとって、高回転型自然吸気V12は絶対的な頂点です。サウンドといい、ワクワク感とエモーションを内包することといい、このエンジンに優る内燃機関はありません」

パーマーはヴァルキリーのプロジェクトに不退転の決意をもって臨んだと明かす。

「一見すると克服できそうもない難関に思えたヴァルキリーのエンジンですが、私たちにはこれ以外のもので間に合わせるつもりは毛頭ありませんでした。コスワースのチームは最初から、従来の限界を押し広げ、内燃機関の新たなベンチマークを造るという固い決意のもとに開発を始めました。結果として並外れたエンジンが完成しました」

パーマーは、将来的にこれを上回るエンジンが登場するか疑わしいと言う。

1990年代のF1TMエンジンに源を辿りながら、以降数10年間に得た設計、素材、工法のノウハウを駆使して出来上がったアストンマーティン・ヴァルキリーのV12エンジン。世界でもっとも著名なエンジンビルダーの作品は掛け値なしのマスターピースにして、前例のない内燃機関である。

TEXT/相原俊樹(Toshiki AIHARA)

(GENROQ Web編集部)

この記事もよく読まれています

あなたにおすすめの記事