ボルボ・XC90T8リチャージは、電動技術がもたらす上質なセダン並みの乗り心地と実用性の高いユーティリティが共存

■1000万円オーバーのこのクルマを使い倒したらかなり格好いいぞ

ボルボXC90は同社のSUVラインアップのなかでトップに位置するモデルで、初代は2002年に登場。現行モデルは2015年に登場、日本には2016年から導入されている2代目となります。

現在、日本で展開されているボルボ車のラインアップは40シリーズ、60シリーズ、90シリーズの3種。40シリーズはSUVのみ。60シリーズはセダン、ワゴン、クロスカントリー、SUV。90シリーズはワゴン、クロスカントリー、SUVの3種を用意。

すべてのシリーズに存在するのはSUVで、ボルボがいかにSUVに力を入れているのかがわかります。すべてのモデルでプラグインハイブリッドか48Vハイブリッドのどちらかが用意されています。

XC90T8フロントスタイル
ヘッドライトにはトールハンマーと呼ばれる、T型のアクセントが配置されている

2代目ボルボXC90のなかでもっともパワフルなパワーユニットが搭載されるのが、XC90T8リチャージとなります。

XC90T8リチャージのパワーユニットは、2リットルの4気筒直噴ガソリンターボ+スーパーチャージャーに電動モーターを組み合わせたものです。エンジンの出力は320馬力/400Nmでフロントに搭載しフロントアクスルを駆動します。モーターは前後に搭載されフロントモーターのスペックは34kW/160Nm、リヤは65kW/240Nmとなります。

リチャージという車名はプラグインハイブリッドという意味となります。2016年の導入時に採用されていたバッテリーは容量30Ahのリチウムイオンでしたが、2019年のマイナーチェンジで容量が34Ahにアップされています。

カタログ上のEVモードでの走行可能距離は40.6kmとなっています。

XC90T8エンジン
エンジンは単体で320馬力/400Nmのスペックをもつ
XC90T8給油口
給油口はボディ右側に用意される。指定燃料はプレミアムガソリン。リッドは四角で、ヒンジはドア側
XC90T8充電口
充電は普通充電のみ。充電口は左側に用意され、リッドは丸形、ヒンジは車両後端側

XC90にはいくつかのモデルに試乗していますが、やはり最初に感じるのはそのボディの大きさです。

全長は4950mmでかろうじて5mを切りますが、全幅は1960mmとかなりワイドで、トヨタのフラッグシップセダンであるセンチュリーの1930mmよりも広くなっています。

道幅の狭いワインディングや、住宅街の一方通行路などではけっこう手に余るのですが、国道や高速道路を走っている限りはボディサイズをそれほど意識しなくてもいいイメージです。

かつてボルボは「空飛ぶレンガ」と異名を取った240ターボでツーリングカーレースに参戦していた時代があります。そこまでではないにしろ、四角さを強調したボディは見切りがよく、さらに360度ビューカメラなども装備されるので、ちょっと気づかっていれば意外と普通に使えます。

XC90T8真正面
真正面から見ると最近のモデルとしてはグリルが控えめでおとなしいデザインであるのがわかる。ボンネットフードにはかなり抑揚がある
XC90T8真横スタイリング
真横から見ると車高は高いもののワゴン的シルエットを持っていることがわかる
XC90T8真後スタイリング
ボルボ伝統の縦型リヤコンビランプを採用。ウエストラインから下がグッと膨らみ、安定感のあるスタイリングを生み出している

ボディ重量は2トンを超えますが、フロント160Nm、リヤ240Nmのモーターがアシストするので、発進はすんなりと力強いものです。

試乗会ベースとなったホテルの地下駐車場から出る際に、スロープで一時停止し坂道発進を行いましたが、何のストレスも不安もありません。ブレーキペダルからアクセルペダルに足を載せ替えて、スッと踏み込むとごくごく普通の所作でスムーズに発進します。

通常走行ではフロントタイヤがエンジン&モーター、リヤタイヤがモーターで駆動されています。この状態でもハンドリングは十分に素直で、カーブが連続する道でもスッキリとクセのないフィーリングとなっています。

走行モードをEVに切り替えるとエンジンが停止し、リヤモーターだけの駆動になります。フロントタイヤが駆動から解放され操舵機構に特化されるとハンドリングは素直さを増すのですが、それは探っているとわかる感覚で、流すようにクルマを走らせていればその差は見逃してしまうものです。

XC90T8リヤスタイル
275/40R21という大径タイヤを採用するが、ボディサイズを考えるとバランスはかなりいい

ボルボのACCは定評がありますが、このXC90T8リチャージもACCを使ってじつに快適なクルージングが可能です。速度の調整やレーントレースも正確で、高速道路の移動ならばクルマにまかせてしまえるという印象です。

サスペンションはフロントがダブルウィッシュボーン、リヤがマルチリンクでスプリングは金属ではなくエアが使われます。

エアサスといってもキッチリとした節度感のある動きで、クルマにはつねに安定感が伴っています。ここ4、5年のエアサスの進化は素晴らしく、どのモデルに乗ってもかつてのエアサスにありがちだったハンドリングが定まらないといったことはなくなりました。

XC90T8リチャージはもちろんSUVなのですが、乗っているイメージは上質なセダンのようなのです。この乗り味の確保に電動技術が寄与しているのは確実です。

XC90T8インパネ
インパネはベーシックなデザイン。センターのモニターは縦型となる。ATセレクトレバーノブはオレフェス社製のクリスタルノブが採用される

今回の試乗では千里浜なぎさドライブウェイを走る機会がありました。なぎさドライブウェイは日本で唯一の砂浜を走ることができる道路です。がっちり踏み固められた砂はかなりしっかりしたグリップを示しますが、それでも砂は砂です。この砂の上をノーマルタイヤで走っても何の不安も感じることはありません。

EVモードの後輪駆動で走っている際に、グリップ不足を感じるとフロントタイヤを駆動する設定なので、こうした低ミュー路も安心して走ることができます。

XC90T8フロントシート
フロントシートにはファインナッパレザーのコンフォートシートが採用される
XC90T8セカンドシート
セカンドシートもファインナッパレザーが採用される
XC90T8サードシート
SUVのサードシートとしてはかなり優秀な部類に入るといえる

XC90T8リチャージの車両本体価格は1139万円と1000万円オーバーの価格。かなりのプレミアムモデルであることは間違いないのですが、実用性も十分に高いレベルが確保されています。

乗車定員は3列シートで7名の乗車を可能にしています。サードシートは体格のいい大人が長時間乗るにはちょっと辛いですが、小柄なら大人でもいけます。

セカンドシートとフロントシートのスペースは十分で、ラグジュアリー感も確保されています。ラゲッジルームはサードシートを使った状態だと262リットルとかなり小さいものですが、サードシートをフォールディングしてしまえば640リットル分のスペースが稼げます。さらにセカンドシートをすべて畳めば1816リットルを確保できます。

この手の高価なプレミアムSUVを使い倒せたら、なかなか格好いいかなと思います。

定員乗車ラゲッジ
定員乗車時のラゲッジルーム容量は262リットル
XC90T8ラゲッジルームセパレート
セカンドシート、サードシートはそれぞれ1名分ずつを分割で倒すことができ、さまざまなパターンでのラゲッジルームアレンジが可能

(文・写真:諸星 陽一

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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