エンジンの圧縮漏れとは?圧縮行程で混合気が漏れる不具合【バイク用語辞典:故障・トラブル編】

■始動不良、アイドル不安定、出力不足、白煙の排出などのトラブルを引き起こす

●コンプレッションゲージで圧縮圧力を計測して圧縮漏れの有無を判断

エンジンは、シリンダーに吸入した混合気をピストンで圧縮して火花で着火燃焼することによって回転を維持します。圧縮行程でガス漏れを起こすと、シリンダー内の混合気量が減少して圧力と温度が上がらず、エンジン本来の性能が発揮できません。

圧縮漏れを起こす原因とそれに起因するトラブルの症状について、解説していきます。

●圧縮漏れの判定

圧縮漏れは、何らかの原因によって圧縮行程で混合気がガス漏れを起こす現象です。正常な圧縮ができないと、本来のエンジンの性能が発揮できず、始動できなかったり、エンジンが不安定になったり、様々な問題を引き起こします。

正常な圧縮ができているかどうかは、コンプレッションゲージで計測すると正しく判定できます。コンプレッションゲージは、点火プラグを抜いてそこにゲージを差し込んでクランキングしたときの圧力を計測する装置です。正常な圧縮圧力は、そのエンジンの圧縮比などで決まるのでメーカーのサービスマニュアルに基準値が記載されています。計測値が、基準値の許容値内より低ければ圧縮漏れが起こっていると判断します。

●ガス漏れの原因

ガス漏れが発生する原因は様々ですが、代表的なものを以下に列挙します。

圧縮漏れの原因
圧縮漏れの原因

・ピストンとシリンダーライナーの摩耗
高速で往復運動するピストンとライナーは、時間とともに摩耗が進み、またオイルの液膜形成が不十分な場合は、摩耗やスカッフ(縦傷)が発生してガス漏れが起こります。

・ピストンリング不良
ピストンリングが破損したり、カーボン付着によって固着したりすると、リング本来の役目であるシール性が悪化します。

・バルブシートの異物付着や変形
シリンダー内の混合気や燃焼ガスは、バルブ傘部がバルブシート(弁座)に着座することでシールされます。バルブシート部が変形したり、シートにカーボンなど異物が付着すると、弁が閉じた状態でもガス漏れが発生します。

・バルブクリアランスが規定値より縮小
弁開閉はバルブステム上端をカム山やロッカーアームで押し込むことで行われます。エンジンが始動して暖まるとステムやロッカーアームなどは膨張するので、弁がきちんと閉まるようにステム上端にはクリアランスを持たせています。このクリアランスが規定値よりも縮まると、弁閉時にもかかわらずバルブシートに隙間が発生します。

・シリンダーヘッドガスケットの破損やシリンダーヘッド下面の歪み
オーバーヒートなどでエンジンが異常昇温すると、ガスケットが熱で破損したり、シリンダーヘッド下面が歪み、圧縮漏れを起こします。

●ガス漏れが起こると何が起こる

ガス漏れの程度とガス漏れ部位によって症状は変わりますが、次のような症状が出れば専門の整備業者に点検してもらうのが安心です。

・軽度のガス漏れ
エンジンがかかりにくい(始動不良)、普通に走行できるが加速が悪い、アイドルが不安定など

・重度のガス漏れ
エンジンがかからない(始動不能)、エンジンがかかってもアイドルが不安定でエンストを起こす、マフラーから白煙を排出する。


圧縮漏れは、初期は性能への影響が小さく気づきにくいですが、徐々に悪化します。また、他の不具合と症状も似ているので、判断するのは非常に難しいです。性能に異変が起こったら、まずコンプレッションゲージで計測してもらうのがよいと思います。

Mr.ソラン

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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