FFのSUVは「なんちゃって」なのか? プジョーの最新モデル「2008」と「5008」をオフロードで確認してみた

■コロナ禍でも売れているプジョー人気を支えるSUVはスタイリングだけが魅力なのか?

●電子制御が走りの性能をアップさせていることを体感

5008GT_BlueHDi
2021年1月に大胆なフェイスリフトを含むマイナーチェンジを果たした5008。プジョーSUVのフラッグシップとなる7人乗りモデルだ

プジョーといえばフランス生まれのブランド、というのは皆さんご存知でしょう。プジョーをはじめ、フランスやイタリアにルーツを持つブランドは、いわゆる“イタフラ”とまとめられることが多く、どうしてもマニア向けというか、日本ではなかなか主流になり得ないという印象が強いかもしれません。

しかし、プジョーは売れています。グループPSAジャパン広報部によると、2020年の日本市場における輸入車全般の販売台数は、14%以上も減ったということです。それは新型コロナウイルスの影響もあって仕方がないことですが、ことプジョーに関しては前年比でプラス1.2%となっているといいます。

さらに2021年に入ってから1~3月の販売は、前年比+47.3%と大きく伸ばしているそうです。コロナ禍という逆風に負けない人気を集めているというわけです。

その理由を探るべく、今回プジョーの最新SUVラインナップの中からフラッグシップである5008とエントリーモデルとなる2008の試乗をすることにしました。

5008は2.0Lディーゼルターボ(130kW・400Nm)を積むGT BlueHDiグレードを選択、2008は1.2LガソリンターボのGT Line(先ごろの商品改良で仕様変更を行い、GTに改名しています)を選びました。

いずれもFF(前輪駆動)で、トランスミッションは8速ATとなっています。そして、今回の試乗では特設オフロードコースを走ることもできました。ワインディングとオフロードという、SUVが活躍するであろうアクティブなシチュエーションで、それぞれどのような走りを見せてくれるのでしょうか。

●6つのモードから選べるアドバンスドグリップコントロールを装備する

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渋滞対応のアダプティブクルーズコントロールなど最新の先進運転支援システムは標準装備。価格帯は460万円~501万6000円

まずは5008の走りから紹介しましょう。フラッグシップといっても全長4640mm/全幅1840mm/全高1650mm、車両重量1690kg(サンルーフ装着で1720kg)という体躯は、SUV全体の中では大柄なほうではなく、狭い道でも扱いやすいと感じるものです。

それでいて、床下収納できる3列目シートを備えた7シーターSUVとしてパッケージングを成立させているのが5008の特徴です。3列目シートを格納すると702Lもの大容量ラゲッジが生まれるというのも、アウトドアレジャーの可能性を広げてくれると感じさせます。

コクピットに座ると、左側の速度計、右側のタコメーターともに指針が外側から内側に向かって回転するデザインがユニークで、プジョーらしいクセの強さを感じさせたりするのですが、いざ動かしてしまうと素直なハンドリングであることに気づかされます。

ステアリング操作に対する反応がシャープ過ぎることなく、SUVらしい高めの視点はゆったりとワインディングを走るのにちょうどいい塩梅です。

そしてシフトレバー近くにあるスイッチをイジっていると、「アドバンスドグリップコントロール」という6つのドライブモード(スポーツ/ノーマル/エコ/サンド/マッド/スノー)から選べる機能が備わっていることに気づきます。駆動方式こそFFですが、オフロードを走ることを前提としたモード(マッドとサンド)が用意されているのです。

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今回の試乗では、ウッドチップを敷き詰めた、滑りやすい特設コースでオフロード性能を確かめることができた

というわけで、さっそく特設オフロードコースへ向かいます。前日までの雨で湿ったウッドチップと泥が混じった滑りやすいコースで、果たして5008はどのような走りを見せてくれるのでしょうか。

まず、最初に感じたのは、ガタガタしたオフロードでの乗り心地が悪くないことです。段差を超えるときの当たりも柔らかく、それでいて大きくストロークしたときの落ち着きもよく、気構えることなく走れます。

とはいえ、難関として作られた坂道をノーマルモードではクリアすることはできませんでした。しかし、そこでESP制御を利用してヌルヌルと進むことができるサンドモードを選ぶと、たしかにトラクションが高まります。ノーマルモードではタイヤが空転するだけだったのですが、しっかりと走り切ることができました。

たしかに4WDのモデルと比べると、オフロード性能は見劣りするかもしれません。しかし、こうしてノーマルでは走破できないシチュエーションをカバーするドライブモードが用意されていて、それが確実に性能差として現れるのです。

FFのSUVというと、どうしても「スタイルだけのなんちゃってSUVでしょ」と考えてしまいがちですが、一般ユーザーがアウトドアレジャーなどで出会ってしまうレベルの道であれば、十分にカバーできるだけの走破性を持っているといえそうです。

●立体駐車場に対応するボディサイズながら最低地上高は余裕たっぷり

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2021年2月の商品改良で上級グレードの名前をGT LineからGTに変えた2008(※写真はマイナーチェンジ前のGT Line)

さて、もう一台のSUV「2008」はどうでしょうか。こちらのエンジンは90kW・230Nmを発生する1.2L 3気筒ガソリンターボですが、インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーにおいて2015年から5年連続で同クラスのトップユニットとして選ばれた、現在進行形の名機。

エンジン始動直後こそ3気筒的な荒っぽい回転感はありますが、暖まってくるとノイズも減り非常にスムースで、3気筒エンジンのネガはほとんど感じないあたりに、世界で評価される片りんを感じるエンジンです。

こちらもFFで、ボディサイズは全長4305mm/全幅1770mm/全高1550mm。グローバルモデルなので偶然かもしれませんが、日本で多くの立体駐車場に対応するコンパクトなボディサイズなのは、魅力のひとつといえるでしょう。

車両重量も1280kgと軽いので加速も軽やか。ただし、アクセルを開け気味にすると回転を引っ張るので、8速ATというスペックから期待するよりはシフトショックが大きくなるのですが、そこも軽快感の演出と理解すべきでしょうか。

ワインディングでのハンドリングは、一言でいえばリニア。緊張するような切れの良さというのではなく、ステアリング操作に対して思ったように曲がっていく様子は、SUVカテゴリーとしては十分以上にスポーティといえそうです。

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2021年2月以降に現行モデルの価格帯は、1.2Lガソリンターボが302万円~359万円。100%電気自動車のほうは431万円~470万円

そして、2008にも電子制御により異なる6つのドライブモードが用意されています。こちらも特設オフロードコースに持ち込んで、いくつかのシーンで確認したのですが、ここでもドライブモードの効果を感じることができました。

泥がタイヤにまとわりつくような路面で使うマッドモードを選ぶと、わざとタイヤを空転させてタイヤにこびりついた泥を弾き飛ばすということですが、たしかにタイヤを激しく空転させてから路面を捉えようとしているのを感じます。

一方で、オフロードにはもっとも向かないスポーツモードでは、アクセル操作に対するトルクの出方が機敏すぎて、かえって乗りづらいのも確認できました。グリップのいいオンロードでは感じづらい違いが明確にあります。

タイヤがミシュラン・プライマシー4というオンロード寄りの銘柄だったこともあり、結果的にオフロードコースでは苦戦した2008ですが、最終的にはサンドモードを選ぶことで難関セクションもクリアすることができました。というわけで、オフロード的な道を走るときには、まずはノーマルモードで様子を見つつ、奥の手としてサンドモードを選べば、グリグリと走ることができるでしょう。

Peugeot2008_GT-LINE
最新世代のインテリア「3D i-Cockpit」を採用する。ホログラムのような立体的な表示がユニークだ

そして、オフロードコースで感じたのはロードクリアランスの大きさです。全高は1550mmと低めのSUVとなっている2008ですが、最低地上高は205mmと本格SUVの領域となるスペックを確保しています。ですから、オフロードを走っていてもボディが路面と干渉してしまうような心配は本当に感じませんし、実際に接触した感触はありませんでした。

結論としてまとめると、5008は日常的にSUVらしい走りが味わえるフラッグシップです。そして2008はワインディングではSUVらしからぬリニアリティを持つコンパクト、それでいてロードクリアランスに余裕のあるパッケージとなっているのが特徴です。

いずれにしても、アドバンスドグリップコントロールという電子制御によって変化するドライブモードを活用することで、オンとオフで異なるキャラクターであり、パフォーマンスを味わえることも確認できました。

この機能は飾りではなく、本当に差を感じることができます。プジョーSUVの試乗時や、またオーナーの方であれば積極的に使ってみて、そのポテンシャルを感じてほしいと思います。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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