旋回性能とは?ストレスなく安定してコーナーを曲がれる能力【バイク用語辞典:走行性能編】

■バイクの旋回は、車体を旋回側に傾けてセルフステリングを利用

●クルマはコーナリングフォース、バイクはキャンバースラスト力で旋回

バイクは、車体を旋回方向に倒してセルフステアリングを利用して旋回します。曲がるためのキーとなるのは、タイヤのキャンバー角によって発生するキャンバースラストと呼ばれる横力です。

バイクの旋回性能を決定付けるメカニズムについて、解説していきます。

●バイクは、なぜ車体を傾けて旋回するのか

バイクは、車体を旋回方向に傾けることによって曲がっていきます。バイクが走行中に方向を変えると、車体に外側へ振られる遠心力が働きます。また垂直方向にはバイクの質量に対応した重力が働いているので、遠心力と重力とのバランスを取るために車体を傾ける必要があるのです。

傾きは、遠心力と重力の合力と釣り合うようにします。遠心力が強く働く場合、例えば高速で旋回する、旋回半径の小さいコーナーの旋回の場合は、車体の傾きをより大きくしなければいけません。

言い換えると、車体の傾きが深すぎると転倒のリスク、傾きが浅いと曲がり切れないリスクが発生します。

●バイクのセルフステアリング

バイクには、車体を傾けた方向に意識しなくても自然にステアリングが切れて曲がっていく「セルフステアリング」という仕組みが備わっています。傾きが大きいほどフロントタイヤの舵角が大きくなり、旋回力が高まる特性です。

バイクの傾きと速度に応じて、バイクが勝手にステアリングの切れ角のバランスを取ってくれるので、できるだけセルフステアリングを邪魔しないように、舵角をバイク任せにすることが自然な旋回につながります。

●クルマの旋回特性とバイクの旋回特性

クルマは、ステアリングを切って前輪のタイヤの向きを変えます。

クルマの旋回特性
クルマの旋回特性

タイヤの向きとクルマの進行方向には差が発生し、これをスリップアングル(滑り角)と呼びますが、このスリップアングルに応じたコーナリングフォースが発生して旋回を始めます。

クルマでは、旋回時にグリップ力を高めて車体の傾きを抑えながらコーナリングフォースを発生させるために、路面とタイヤの接地断面はフラットにしています。

バイクの旋回特性
バイクの旋回特性

一方、バイクは車体を傾けて旋回します。車体を傾けると、セルフステアリングによって自然にステアリングが内側に向き、タイヤのキャンバー角によって発生する内向きの横力、キャンバースラスト力によって曲がっていきます。ただし、旋回状態によってはスリップアングルによる旋回力が働く場合もあります。

このため、バイク用タイヤはクルマ用に比べて大きなキャンバー角が取れるように、路面との接触面は円形になっています。

●旋回性能に影響を与えるキャスター角

キャスター、トレール、フォークオフセット
キャスター、トレール、フォークオフセット

スムーズな旋回とは、できるだけ少ない減速でコーナーを抜けること、短い時間で向きを変えることです。まずは適正な運転姿勢をとることが重要ですが、車体の構成で重要なのはキャスター角です。キャスター角は、前輪を横から見たときにフロントフォークの地面に垂直なラインに対する角度です。

ステアリングの切れ角と実舵角
ステアリングの切れ角と実舵角

キャスター角度が大きいと、フロントフォークが寝ていることを示し、バイクが直進しようとする力が強くなります。旋回時には、常に倒れないように復元力が働き、旋回中の安心感が増します。

逆にキャスター角が小さいと曲がりやすくはなりますが、バイクは倒れやすくなります。


バイク用タイヤは、クルマ用に比べると断面が円形になっています。これは、バイクが車体を傾けて旋回することに起因し、傾けることによって発生するキャンバースラスト力を効果的に活用するためです。

最近は、旋回中の安全を確保するため制動力を電子制御するコーナリングABS(アンチロックブレーキシステム)も出現しています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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