エンジン出力向上の概説:圧縮比アップ、空気量増加、損失低減が3本柱【バイク用語辞典:エンジン出力向上編】

■圧縮比を上げるためには、ノッキングの発生を抑えることがポイント

●空気量を増やすためには、吸気抵抗の減少、弁開口面積の拡大、慣性効果の活用が有効

エンジンの出力を向上させるためには、圧縮比を上げて空気量を増やすことが基本です。圧縮比を上げるためにはノッキングの発生を抑えること、空気量を増やすためには開口面積を大きくして吸気抵抗を減らすこと、吸気の慣性効果を上手く活用することが重要です。

エンジンの出力向上のための手法について、概説します。

●エンジンの熱効率を上げる

エンジンの熱効率は、燃料による燃焼エネルギーを機械エネルギーに変換する割合であり、熱効率を上げることが出力向上と燃費改善につながります。

圧縮比と熱効率
圧縮比と熱効率

ガソリンエンジンの理論サイクル(オットーサイクル)では、熱効率は以下のように圧縮比と比熱比で表わされ、圧縮比が高いほど熱効率が向上します。

熱効率 = 1- (1/ε)κ-1
(ε:圧縮比、κ:比熱比=低圧比熱/定積比熱、空気の場合は1.4)

ノックの発生メカニズム
ノックの発生メカニズム

ただし、圧縮比を上げるとノッキングが発生しやすくなるのでノッキングの発生を抑えることが重要です。そのためには、燃焼室形状を火炎伝播距離が短くなるようにコンパクトな燃焼室に、また燃焼室壁面やシリンダーライナの壁面温度を下げるように周辺のウォータージャケット(水通路)を最適化する手法がとられています。

また、シリンダブロックにノックセンサーを装着してノッキングの発生を検出することによって、点火時期などを最適化するノック制御を採用しているモデルもあります。

●各種損失を減らす

ガソリンエンジンの熱勘定
ガソリンエンジンの熱勘定

熱効率を分かりやすく表す方法に、熱勘定があります。これは、エンジンの燃焼による発熱量を100%として、最終的に取り出される有効仕事の割合と、各種の損失(冷却損失、機械損失、ポンプ損失、排気損失、燃料の未燃損失)の割合を図で表します。

エンジンの損失の中では、通常は排気損失が最も大きく、冷却損失、機械損失、ポンプ損失の順に小さくなります。これらを減らすことで、出力と燃費を向上させることができます。

・排気損失:高温、高圧の排気ガスとして外気に捨てられる損失

・冷却損失:燃焼によって発生する熱が壁面を通して冷却水に奪われる損失

・機械損失:フリクションと呼ばれ、摺動部品間で発生する摩擦損失

・ポンプ損失:吸排気通路によって発生する絞り損失

・その他:放射熱による損失や燃焼で燃え切らない未燃燃料の未燃損失など

●充填効率の向上(空気量を増やす)

吸入空気の流れ
吸入空気の流れ

充填効率は、シリンダー容積(排気量)に相当する空気量に対して、実際にどの程度空気が入っているかの割合を%で示します。常に同じ条件で比較できるように、吸入空気を標準状態(標準大気圧1bar、25℃)に換算しています。エンジンのトルクは、基本的にはこの充填効率に比例します。

充填効率を上げるには、以下の3つの手法があります。

・吸気抵抗の減少

吸気系通路の急激な断面変化や曲がりをなくして吸入空気の流れをスムーズにする。

・吸気弁開口面積の増大

吸気弁がリフトしたときの吸気弁の傘周りの空気が通過する領域を弁開口面積と呼び、大きければ空気量を増やすことができます。具体的には、マルチバルブ化やショートストロークで吸気弁を大きくすることが相当します。

・慣性過給の利用

吸気系主として吸気ポートのポート長と径の最適化によって、吸気の流れの慣性効果を利用して充填効率を向上します。


エンジンの出力は、エンジンに求められる最も重要な性能です。バイクを思い通りに走らせるためには、エンジンが必要な出力性能を発揮することが必須条件です。

本章では、エンジンの出力向上のためのさまざまな手法について、詳細に解説します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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