ラムエアシステムとは?走行風を積極的に取り込んで吸入空気量を増やす仕組み【バイク用語辞典:吸気系編】

■フロントのアッパーカウル付近に吸気ダクトの導入口を設置

●高速時に強い走行風を取り込んで圧力(密度)の高い空気をエンジンに供給

カウル付きのロードバイクなどには、カウルの前面や側面に走行風の導入口が設けられています。この導入口から走行風の圧力の高い空気をエンジンに吸入して、過給のような効果を発揮するのがラムエアシステムです。

走行風を利用して充填効率を高めるラムエアシステムについて、解説していきます。

●ラムエアシステムとは

エンジンのトルク(出力)を向上させるには、吸入空気量を増やして充填効率を上げることが効果的です。充填効率を上げる方法としては、自動車で普及しているターボのような過給技術がありますが、バイクではコストが高く一般的ではありません。

ラムエアシステム
ラムエアシステム

バイクの吸入空気は、吸気ダクトの導入口からエアクリーナーに入り、そこから吸気ポートを通過してエンジンに吸入されます。通常は、導入口からエンジンまでは吸気抵抗を極力減らすために、導入口は温度の高いエンジンの上部や側面など近接に配置されます。この場合、吸入空気の温度は高温のエンジンの影響を受けて上昇します。吸入空気の温度が上がると空気は膨張してその密度が低下するため、充填効率が低下して出力は低下します。

この問題を解決するひとつの手法が、ラムエアシステムです。「ラムエア」とは、衝突する空気という意味です。

●ラムエアシステムの構成

ラムエアシステムによって空気量を増やす考え方は、バイクだけでなくレーシングカーや航空機にも採用されています。

バイクでは、高温のエンジンから離れたアッパーカウルの下部やヘッドライトの付近に吸気ダクトの導入口を設置して走行風を吸い込みます。走行風は走行速度とともに強まり、導入口の圧力も上昇します。吸い込まれた空気は通路抵抗が発生しないように直線的な吸気ダクトを通過してエアクリーナーに導かれます。

最終的に、エアクリーナーのフィルタでクリーンになった圧力の高い吸気がポートを通じてエンジンに吸入されます。

●ラムエアシステムの効果

走行風を利用するラムエアシステムの効果は、車速が上がるにつれ大きくなります。出力向上の要因は、温度の抑えられた圧力の高い吸入空気による充填効率の向上の他にも、次のような効果もあります。

・加圧吸気によるポンピング損失の低減による熱効率の向上
ポンピング損失は、シリンダー内のピストンが下降するときの吸入時に発生しますが、吸気の圧力が高ければその損失は低減します。

・吸気温度低下によるノッキング抑制による熱効率向上
ノッキングは、燃焼室内で発生する自着火現象ですが、混合気の温度が下がればノッキングしづらくなります。

・吸気ダクトの長さの最適化による慣性効果を利用した充填効率向上
吸気ダクト内の長さと径を最適設計すれば、吸気の慣性を利用して充填効率が向上します。

ただし、高速時などで急減速すると導入口の圧力が過敏に変化して吸入空気量も急激に変動するので、精度の高い電子制御が要求されます。


バイクでも1980年代に主要メーカーからターボ搭載車が発売されましたが、コスト高やレスポンスの問題から普及には至りませんでした。ラムエアシステムは、過給システムほどの効果はありませんが、吸気系を最適化すれば低コストである程度の効果が期待できます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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