吸・排気弁駆動の仕組みとは?回転するカム山で吸排気弁を開閉するのが一般的【バイク用語辞典:4ストロークエンジン編】

■一般的な2弁(吸気×1、排気×1)に対して、高出力エンジンは4弁や5弁を採用

●弁駆動方式は、カム1本のSOHCと吸排気それぞれにカムを配備するDOHCが主流

吸気弁は、エンジンのシリンダー内に供給される空気を制御し、排気弁はシリンダーから排出される燃焼ガスを制御する重要な役割を担っています。その吸・排気弁を開閉させるのは、動弁機構の役目です。

動弁機構による弁駆動の仕組みについて、解説していきます。

●吸・排気弁の役割

動弁機構と吸排気弁配置
動弁機構と吸排気弁配置

吸・排気弁とそれを動かす動弁系機構は、エンジン上部のシリンダーヘッドに組み込まれています。

弁は、上下に動く弁傘部の弁フェースと、吸・排気ポートそれぞれに装着された弁座(弁シート)の間隔(弁リフト)によって、流れを開放したり遮断したりします。

吸・排気弁は燃焼室の限られたスペースに、できるだけ大きく、あるいはマルチ(複数)バルブ化して配置されます。基本的な2弁(吸気×1、排気×1)エンジンと高出力化を狙った4弁(吸気×2、排気×2) 、5弁(吸気×3、排気×2)エンジンがあります。

●吸・排気弁の開閉タイミング

4ストロークエンジンは、4つの行程で構成されています。この4行程でエンジンは2回転して、それを連続的に繰り返すことによって回転を持続します。

4ストロークエンジン
4ストロークエンジン

・吸気行程
ピストンが下降し始める上死点(最上点)直前に吸気弁を開いて、シリンダー内に空気と燃料の混合気を吸入します。ピストンが、下死点(最下点)を過ぎてから吸気弁を閉じます。

・圧縮行程
吸入した混合気を圧縮するので、吸・排気弁とも閉じています。

・燃焼行程
圧縮した混合気を点火プラグの火花で着火させ、燃焼によってピストンを押し下げます。吸・排気弁は閉じたままです。

・排気行程
ピストンが上昇し始める下死点より前に排気弁を開いて、燃焼ガスを排出します。上死点直後に排気弁を閉じます。

空気の動きは慣性によって遅れが生じるので、吸気弁の閉時期は下死点をある程度過ぎてから閉じます。一方排気弁については、できるだけ効率よく燃焼ガスをシリンダー外に排出するために、下死点より前に排気弁を開きます。閉じるのは、上死点直後です。

排気行程終了時と吸気上程開始時の上死点前後で、排気弁と吸気弁の両方が少しだけ開いている期間があり、それをオーバーラップと呼びます。オーバーラップ期間の長さによって、残留ガス量が増減し、燃費や排出ガス特性に大きな影響を与えます。

●弁駆動の仕組み

吸・排気弁は、ピストンの動きに連動してカムシャフトで駆動(開閉)します。

カムシャフトには、設定された弁の開閉時期やリフトを実現するプロファイルをもつ卵の断面のような形状のカムが、吸・排気弁の数だけ配列されています。このカムシャフトを、クランクシャフトが2回転する間に1回転するように、タイミングベルトやチェーンで連動させます。

動弁機構には、現在はあまり採用されていないOHVと主流のSOHC、DOHCの3方式があります。

弁駆動方式
弁駆動方式

・OHV(OverHead Valve)
カムシャフトがクランクシャフトの横にあり、カムの動きをプッシュロッドとロッカーアームを介して弁を開閉します。長いプッシュロッドを介しているので開閉タイミングの精度が悪いため、現在はハーレーと一部のモデルしか採用していません。

・SOHC(Single OverHead Camshaft)
シリンダーヘッドの弁直上に1本のカムシャフトを配置して、ロッカーアームやスイングアームで吸・排気弁を開閉します。カムが直接ロッカーアームを作動させるので、高回転でも精度良く開閉でき、現在の主流です。

・DOHC(Double OverHead Camshaft)
高性能エンジンのほとんどが採用しているのが、吸・排気弁それぞれを一対のカムシャフトで駆動するDOHC方式です。通常はカム山で直接弁を押す直動式なので、ロッカーアームが不要な上、より高い精度で開閉時期を制御できます。


弁の形状は、エンジンが誕生してからほとんど変わっていません。しかし弁開閉機構は、自動車の技術に追従して進化し、バイクの高性能化に大きく貢献しています。

運転条件に応じて開閉時期や弁リフト量を変更できる可変動弁機構を採用しているモデルも出現しています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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