軽自動車の燃費競争も一因!日本のクルマづくりの信頼を揺るがした燃費不正や検査不正【スズキ100年史・第26回・第6章 その3】

2010年以降に始まった軽自動車の燃費競争は、飛躍的な技術革新を達成した一方で、一部メーカーによる燃費や検査の不正問題を引き起こしました。
不正問題の発覚を機に、ユーザーは公称燃費よりも実際に一般路を走行したときの実燃費や動力性能など実用性を重視するようになりました。また、当時安全に対する社会的な要望が強まったことから、軽自動車メーカーは実用燃費や予防安全技術などの開発へと大きく舵を切ったのです。

第6章 燃費競争の終焉と新たな技術への挑戦

その3.燃費競争の終焉

●過度な燃費競争が引き起こした燃費不正

2010年以降に始まった軽自動車メーカーによる燃費競争は、燃費向上技術を大きく向上させましたが、一方で大きな社会問題を引き起こしました。それは、一部メーカーによる法令やルールを無視した燃費データや検査の不正です。

自動車メーカーの不正
自動車メーカーの不正

2016(平成28)年、三菱自動車による軽自動車の燃費不正、続いてスズキの不正も発覚しました。三菱は都合の良い燃費値を使う、値そのものを改ざんする、スズキは定められた計測法を実行していなかったという不正です。過度の燃費競争によってメーカーの開発現場にもたらされた強いプレッシャーが、不正発生の一因と考えられます。

さらに軽自動車以外の不正も発覚しました。日産、スバル、マツダによる完成検査での不正です。定められた検査方法でない勝手な検査や無資格者による検査、排ガスや燃費データの改ざんなど次から次へと不正が露呈しました。しかも発覚したこれらの不正は、発覚するかなり前から日常的に行われていたのです。

これらの不正問題は、日本のクルマづくりの信頼を失墜させる大きな社会問題へと発展し、メーカーの過剰な燃費至上主義や開発期間の短縮といった従来の開発スタイルに大きな問題提起をもたらしました。

●モード燃費値の実燃費との乖離

トビラ画像
燃費不正を機に注目されたのは、そもそも自動車メーカーが開示する公称燃費にどれだけの意味があるのか、公称燃費とユーザーの日常的な実燃費に大きな乖離があるという事実でした。

通常、ユーザーの実燃費は、公称燃費ほどに優れた燃費値は出ません。メーカーの公称燃費は、シャシーダイナモ試験によって法規で定められた運転パターン(モード運転)で、熟練したドライバーが運転した結果の燃費値だからです。一方の実燃費は、環境条件や道路状況、走り方、ドライバーの運転技術などによって大きく影響されます。

メーカー公称値は特定条件下の最適値なので、公表値が1km/L優れているからといって、それが実燃費には直接反映されないということが広くユーザーに認知されたのでした。その結果、ユーザー自身がわずかな公称燃費差に一喜一憂しなくなったのです。

●燃費よりも大切な実用性や予防安全

2015(平成28)年以降は、燃費に対するユーザーの認識変化や安全に対する意識の高まりに応えるため、メーカーは燃費よりも実用性や安全性を重視するようになりました。
例えばホンダのN-BOXはデザインや使い勝手を重視した軽自動車、スズキのハスラーは遊び心を追求したユニークなSUVとして人気を呼びました。

また、この10年の間に高齢者のペダル踏み間違いによる急発進事故が多発し、誤発進抑制制御や自動ブレーキなどの予防安全技術が急速に注目され始めました。軽自動車メーカーは、空虚な燃費競争に終止符を打ち、より実用的な予防安全技術の開発へと大きく舵を切ったのです。

(文:Mr.ソラン)

第27回に続く。


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第6章 燃費競争の終焉と新たな技術への挑戦

その1.軽自動車燃費競争の勃発【第24回・2020年8月24日公開】
その2.スズキのハイブリッド技術【第25回・2020年8月25日公開】

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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