フォード傘下で外国人社長の誕生【マツダ100年史・第26回・第7章 その4】

【第26回・2020年7月26日公開】

マツダはバブル崩壊とともに経営危機に陥り、1996(平成8)年にフォードの傘下に入りました。ここから8年間は、フォード出身の外国人社長のもとで経営の立て直しが行われていくことになります。経営再建は順調に進み、1998(平成10)年度には5年ぶりの営業利益の黒字化を達成しました。
経営危機からの脱出には徹底した経営の合理化に加え、大幅な車種削減と「デミオ」など主力車種への集中が大きな役割を果たしました。1996(平成8)年に発売された初代「デミオ」は新しいジャンルを開拓して販売を伸ばし、再建の救世主となりました。

第7章 バブル絶頂と崩壊、そして「Zoom-Zoom」

その4.フォード傘下で外国人社長の誕生

●外国人社長の誕生

1990年代前半に起きたバブル崩壊と国内販売の5チャンネル体制の失敗によって経営危機に陥ったマツダは、1996(平成8)年にフォードの傘下に入りました。
フォード出身のヘンリー・ウォレスが社長に就任、日本の自動車メーカーとしては初の外国人社長が誕生しました。
ウォレス社長は、経営トップとして急ピッチで抜本改革に乗り出しました。
所信表明の中で、リーダーシップ、顧客満足度、フォードとの新しい関係の構築、変革を進んで受け入れることなどを強調しました。
その後、翌年1997(平成9)年にジェームス・E・ミラー、1999(平成11)年にマーク・フィールズ、2002(平成14)年にルイス・ブースと外国人社長の時代が8年続きました。

●外国人社長の成果

財務の専門家であったヘンリー・ウォレス社長は、フォード流の経営手法を取り入れて財政体制を強化しました。
また、フォードとの関係を重視し、フォード車とのプラットフォームの共通化や開発、生産、購買までの全業務をデジタル化して経営全体の効率を図る「MDI(マツダデジタルイノーベーション)」の導入など、経営再建計画を次々に推進しました。
経営の合理化に加え、5チャンネル体制の縮小や大幅な車種削減、デミオなど主力車種への集中が奏功しました。
これらの成果は、2年目の1998(平成10)年度には6年ぶりの売上高の増加と5年ぶりの営業利益の黒字化として表れました。総需要がマイナスにもかかわらず、マツダ車は前年比1万台増となり、シェアは4.7%から5.0%へと上昇しました。シェアアップは、実に7年ぶりのことでした。

●救世主となった初代デミオ

ミニバンが市場を席巻していた1996(平成8)年、ミニバンとステーションワゴンを融合した新しいジャンルの初代「デミオ」がデビューしました。
コンパクトながら、多彩なシートアレンジや広いラゲッジスペースを実現して、実用性と居住性を両立。車高はタワーパーキングに入庫できるギリギリの高さに抑え、シンプルでボクシーなスタイリングも人気を呼び、マツダの再建を象徴する存在でした。
ファミリー層だけでなく、社用や商用としても絶大な支持を受け、その年の「RJCカーオブザイヤー」や「日本カーオブザイヤー」の特別賞を受賞するなど、高い評価を受けました。
フォード店では「フェスティバミニワゴン」の名で販売され、発売1ヶ月の受注はデミオと合わせて21,200台と、大ヒットしました。発売後1年で生産台数10万台を達成し、まさしく苦しむマツダの救世主となりました。

初代デミオ(1996(平成8)年8月)。
初代デミオ(1996(平成8)年8月)。
初代デミオ リヤビュー。
初代デミオ リヤビュー。
デミオの運転席。
デミオの運転席。
デミオのインテリア。
デミオのインテリア。

その後1999(平成11)年に7人乗りの新型車「プレマシー」、スタイリッシュに生まれ変わった2代目「MPV」も健闘してマツダの再生に貢献しました。

初代プレマシー(1999(平成11)年3月)。
初代プレマシー(1999(平成11)年3月)。
2代目MPV(1999(平成11)年6月)。
2代目MPV(1999(平成11)年6月)。

(Mr.ソラン)

第27回につづく。


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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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