バックファイヤとアフターファイヤとは?吸気系内と排気系内の異常燃焼【自動車用語辞典:エンジン燃焼編】

■正常に燃料噴射と点火時期が制御されている市販車では発生しない

●燃焼し切れなかった混合気が吸気側に逆流して着火するバックファイヤ、排気側へ素通りして着火するアフターファイヤ

バックファイヤとアフターファイヤは混同されがちですが、バックファイヤはエンジンの前段で起こる吸気系での異常燃焼、一方のアフターファイヤはエンジンの後段で起きる排気系での異常燃焼を指します。

アフターファイヤとバックファイヤについて、解説していきます。

●バックファイヤとは

バックファイヤは、吸気弁が開いたときに混合気が高温の燃焼ガスで着火して、その火炎が吸気ポート側に逆流する現象です。

バックファイヤが発生するためには、2つの条件が必要です。

・燃焼が遅く、排気行程から吸気行程にかけても燃焼が続いていること

・吸気弁が開くと同時に燃料(混合気)がシリンダー内に供給されること

この条件を満たすのは、点火時期が大きく遅れている、空燃比が希薄または過濃によって燃焼速度が極度に遅いこと、そして燃料供給システムがキャブレター方式であることです。

●バックファイヤはキャブレター方式しか起こらない

キャブレター方式はメカニカルな燃料供給システムなので、吸気ポート内には常時燃料が付着し、混合気が浮遊しています。したがって、何らかの原因で不完全燃焼が発生した場合、アフターフャイヤーが発生する可能性があります。

一方電子制御噴射弁は、特定の限られた期間しか燃料を噴射しないので、上記の2番目の条件を満たすことはなく、バックファイヤは起こりません。

日本ではキャブレター方式のクルマは、2002年を最後に生産が終了しています。現在の日本市場にはほぼ存在せず、電子制御噴射弁に切り替わっています。

したがって、現在のエンジンではバックファイヤは起こらないと言えます。

●アフターファイヤとは

アフターファイヤは、燃料供給システムや点火システムの不具合によって不完全燃焼が起こり、それが原因で排気系に流出した未燃燃料HCやCOなどの未燃ガスが急激に燃焼する現象です。

アフターファイヤは、次のメカニズムで発生します。

・運転中、何らかの原因によってエンジンが不完全燃焼を起こし、エンジンから未燃の燃料とガスが排出

・排出された未燃の燃料とガスは、排気管の中に一時的に滞留

・未燃の燃料とガスは、次の行程で排出される高温の排気ガスで着火

・排気管内で着火した未燃の燃料とガスは激しく燃焼、爆発音とともに場合によっては排気管出口から火炎となって噴出

●不完全燃焼が発生する原因

エンジンが正常に作動するには、シリンダーに吸入する空気と投入する燃料の空燃比(重量混合比)を適正に制御する必要があります。

不完全燃焼は、適正な空燃比範囲から外れ、混合気が濃すぎる(燃料が多すぎ)、または混合気が薄すぎる(燃料が少なすぎ)場合に起こります。

また、点火時期が通常よりも大きく遅れてしまった場合も、燃焼が終わり切らず不完全燃焼になります。

分かりやすい事例として、レース車で見かけるコーナー進入時のアフターファイヤがあります。

レース車ではコーナー手前で減速するときに、その後の立ち上がりのレスポンスを良くするために燃料カット(燃料の供給を止める)をせずに、ある程度燃料をシリンダーの中に噴射します。この減速時に供給された燃料が不完全燃焼し、未燃ガスとなって排気管に排出され、高温の排気管内で爆発的に燃焼し、火炎を伴ったアフターファイヤが起こります。

バックファイヤとアフターファイヤ
バックファイヤとアフターファイヤ

エンジンの電子制御システムは、各種センサーの情報を使って、適正な燃料量と点火時期になるようにECUで制御します。もし何らかの異常があったとしても、異常を検知する自己診断機能(OBD:On-board diagnostics)によって、何が異常か故障かをドライバーにモニターで警告するようになっています。

したがって、現在の市販車では通常バックファイヤとアフターファイヤは起こりません。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
続きを見る
閉じる