F1の技術の概説:世界最高峰のF1マシンを支える最先端技術【自動車用語辞典:F1の技術編】

■安全に最高速300km/hで「走る、曲がる、止まる」ための技術を結集

●エンジンやブレーキ、タイヤなどすべてのシステムと機能部品を厳しいレギュレーションで規定

F1(フォーミュラ・ワン)は、世界各地のサーキットで競う最高峰の国際自動車レースです。オープンホイールのフォーミュラカーに最先端技術を結集し、1000PSに近い最高出力で最高車速は300km/hを超えます。

F1マシンのさまざまな技術とレギュレーションについて、解説していきます。

●F1とは

正式名称「FIAフォーミュラ・ワン世界選手権」で、FIA(国際自動車連盟)が主催するオープンホイールレースの頂点カテゴリーです。フォーミュラとは「規定」を意味し、何でもありではなく厳しいレギュレーション(規約)のもとにレースが行われます。

サーキットの長さは開催地でさまざまですが、各サーキットで走行距離305kmを超える最小周回数が設定されています。周回数以外にもレースは最大2時間まで、中断がある場合はその時間を含めて最大4時間までと規定されています。

●F1マシンの技術とレギュレーション

レギュレーションには、スポーティングレギュレーション(競技規約)とテクニカルレギュレーション(技術規約)があり、FIAが毎年シーズン開始前に改訂して内容を発行します。

F1で採用している代表的な技術と、2019年現在のレギュレーションは以下の通りです。

・パワーユニット

1.6L V6 ターボエンジンにERS(エネルギー回収システム)を組み合わせること、エンジン形式だけでなく各システムや部品のサイズ、材質などまで詳細に規定されています。

1レースで使用できるエンジンの燃料量110kg、瞬間的な燃料流量も100kg/hに制限されています。

・ギヤボックス

パドルシフトを使ったセミオートマチックトランスミッションで、8速とリバース1速に規定されています。

・ブレーキ

ブレーキ装置は、市販車と同じ油圧制御のディスクブレーキです。1つのペダルによって操作される2系統に分離した油圧回路のみで構成されること、ピッチングに対応して前後輪の油圧を変更できるブレーキバランス調整機構の装備が規定されています。

・ステアリングシステム

ステアリングは、市販車で一般的に採用されているラックピニオン方式です。

F1ドライバーはキックバックによって路面の状況やグリップ力の状況を把握するので、市販車で抑えているキックバックをあえて抑えることはしません。

・サスペンション

乗り心地に配慮する必要がないので、駆動力を効率的に発揮できるようにサスペンションストロークを極端に小さくした独立懸架のダブルウィッシュボーン方式を採用しています。

・タイヤ

レースタイヤは、FIAが指名した公式サプライヤのピレリより供給されます。

5種類のコンパウンド(柔らかさなどのゴム質)のドライタイヤと、2種類の雨天用インターミディアムタイヤおよびウェットタイヤが供給されます。

路面との接地面積を拡大するために溝のないスリックタイヤを使い、さらにグリップ力を高めるためコンパウンドは柔らかくしています。ただし雨天用のウェットタイヤは、市販車と同様に溝が付いています。

・エアロパーツ

F1マシンが速く走行できる理由は、ハイパワーのエンジンだけでなく、各種のエアロパーツが大きく貢献しています。

フロントウィング、リアウィング、バージボードなどのエアロパーツを利用してダウンフォースを強め、コーナリング中も速度を落とさず高速で走行できます。

F1の代表的な技術
F1の代表的な技術

F1マシンは運動性能を上げるために、タイヤを剥き出しにするオープンホイールやミッドシップを採用し、各機能についても走りに特化したさまざまな技術を盛り込んでいます。

本章では、F1マシンで採用されているさまざまな技術について、詳細に紹介します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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