ヨーイングとは?旋回時にマシンの上下の軸に生じる回転挙動【自動車用語辞典:F1の技術編】

■ステアリングを切った時に素早く向きを変える、優れた回頭性のために利用

●旋回中に発生するとオーバーステアやアンダーステアを起こしてタイムロスが発生

走行中のF1マシンの挙動は複雑で、マシンを回転させようとする3つの挙動、ローリングとピッチング、ヨーイングが働きます。これらの挙動に大きな影響を与えるのは重心位置で、マシンの重心をどこにするかで運動性能が大きく変化します。

ヨーイングの挙動と重心位置の影響について、解説していきます。

●重心位置と運動性能

F1マシンにとって重心位置は非常に重要です。重心位置によって、ダウンフォース(タイヤを路面に押し付ける力)の前後バランスが決まり、運動性能が大きく変化します。

重心位置が中央にあれば、前輪と後輪の荷重は同じですが、重心が後方にあれば後輪荷重が増えて前輪荷重が小さくなります。このような前後荷重の違いによって前後輪のグリップ力が変わり、発揮できる駆動力や制動力、コーナリングフォースが変化します。

F1マシンは後輪駆動なので駆動力が発揮できるように、後輪の荷重配分が大きい設定になっています。

●車体に加わる3つの挙動

走行中のマシンは、前後、左右、上下に複雑に動きます。基本的には重心位置が中心になるので、力と同じように重心を直交する3つの成分に分けて考えることができます。

重心を中心にした3つの挙動、前後軸中心の回転をローリング、左右軸中心の回転をピッチング、上下軸中心の回転をヨーイングと呼びます。

マシンの挙動
マシンの挙動

●ヨーイング

旋回時にマシンを回転させる力が、ヨーイングです。

ローリングとピッチングは極力抑えるのが一般的ですが、ヨーイングは旋回のきっかけ(回頭)のために必要です。しかし旋回中に発生するヨーイングは、オーバーステアやアウンダーステアを引き起こし、操縦安定性を悪化させます。

●コーナリングフォースとヨーイングの関係

ステアリングを切った時には、それに応じてタイヤにはコーナリングフォースが発生して旋回します。コーナリングフォースは、前輪だけでなく後輪にも発生します。

旋回中の加減速によって、前後輪のコーナリングフォースのバランスが崩れてヨーイングが発生します。

・ニュートラルステア

前後輪のコーナリングフォースのバランスが取れていれば、ヨーイングが発生せず安定して旋回できます。この状態をニュートラルステアと呼び、理想的な状態です。

コーナリングフォースのバランスとは、単なる力の大きさではなく、重心から前後輪までの距離も考慮したヨーモーメントがバランスすることです。

・オーバーステア

旋回中の速度は一定でなく加減速が繰り返されます。加減速でピッチングが起こって荷重移動や前後輪のダウンフォースが変化すると、コーナリングフォースのバランスが崩れてヨーイングが発生します。

後輪側のコーナリングフォースが弱くなると、それまでの旋回ラインに対して内側に曲がろうとするオーバーステアが起こります。

・アンダーステア

逆に前輪側が弱くなれば、旋回ラインがよりふくらもうとするアンダーステアが起こります。

オーバーステアでもアンダーステアでも発生すると、マシンのコントロールが難しくなり運動性が低下します。

オーバーステア&アンダーステア
オーバーステア&アンダーステア

重心から遠いところに重量物があると、それだけ旋回に大きな力が必要になり、マシンの動きが遅れます。ステアリングホイールの操作に対するレスポンスが悪くなり、運動性能が低下します。

そのため、F1マシンではヨーイングを効果的に活用するように、できるだけ重心の近くに質量が集中するように重量配分しています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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