【自動車用語辞典:衝突安全「ヘッドレスト」】追突などによる頸部の損傷を低減する必須装備

■運転席と助手席にはヘッドレスト装着が義務

●首を載せる枕ではない

近年、交通事故による死者数は減少していますが、負傷者数は思惑通りに減少していません。また、交通事故の約1/3を追突事故が占め、その結果としてむち打ち傷害例が多いのが実状です。むち打ち症など頸部の傷害を低減するために装備されているのが、ヘッドレストです。

ヘッドレストの機能とその効果について、解説していきます。

●ヘッドレストの目的

ヘッドレストを単に頭を載せる枕のような存在だと思っている人が意外に多いようです。レストという言葉を休憩のレスト(rest)だと勘違いしているためですが、実は拘束(restraint)のレストなのです。確かに紛らわしいですが、後突されたときに頭部が後ろに傾くことを防止する、むち打ち傷害を受けないようにする乗員保護装置です。

ヘッドレストは、「道路運送車両の保安基準」の中で追突等により衝撃を受けた場合に、乗員の頭部が過度に後ろに傾いて頸部を負傷することを防止する安全装置と明記されています。現在は、運転席と助手席への装着が義務化されています。

その背景には、交通事故の約1/3が追突事故であること、そのほとんどがむち打ち症に代表される頸部傷害を受けるという実態があります。

●どのようにしてむち打ち症になるのか

運転中に追突等によって急に衝撃が身体に加わると、身体が前方に大きく揺すられ、その結果首の上の重い頭だけが後方に残る状態になります。これによって最も弱い首が損傷を受け、最悪の場合は頸椎の骨折や脱臼を起こし、寝たきり状態になることもあります。

頸椎の受傷の中では、むち打ち症は比較的軽傷で首の筋肉や靭帯、関節を傷めた「頸椎捻挫」を指します。ただし首や肩、背中に痛みが走り、長期の治療が必要になることが多いです。

むち打ち症になるリスクを抑えるには、正しい姿勢で運転するようにシート位置を調整すること、追突時に頭を適正に拘束するように、ヘッドレストの中心を耳の穴の位置よりも2~3cm高くなるように調整することが重要です。

ヘッドレストを外すのは、もっての外です。非常に危険ですし、保安基準違反です。

むち打ち症のメカニズム
むち打ち症のメカニズム

●アクティブヘッドレストとは

現在むち打ち症対策としては、「むち打ち低減シート」や「頸部衝撃緩和シート」と呼ばれるシートが採用されています。これらは、シートバックの上部をウレタンなどで柔らくして、衝突時に背中の上部が沈み込む構造です。

胸部の前方移動を遅らせて、ヘッドレストが頭部を捕えてから胸部と頭部を同時に前方へ移動させることでむち打ち傷害を軽減します。

一方、ヘッドレストを自動的に適正な位置へ移動させる「アクティブヘッドレスト」と呼ばれるシステムの採用が増えています。

例えば、追突時に背中がシートバックを押すとテコの原理でヘッドレストを前方に移動させて頭を拘束する方式、シートバックを後ろに倒して衝撃を吸収して頭部を保護する方式などがあります。

さらに最近は、センサーで衝突が避けられないと察知したら、衝突前にヘッドレストの位置を最適化するシステムも出現しています。

むち打ち低減シート
むち打ち低減シート
アクティブヘッドレストの例
アクティブヘッドレストの例

交通事故は、自分が気を付けて安全運転をしていても、相手に追突される、あるいは巻き込まれることは避けられません。

今後、自動緊急ブレーキを装備したクルマが増えくるので、追突事故が大幅に減少することを期待したいと思います。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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