ホンダ・ヴェゼルとマツダ・CX-30の「決定的な違い」とは? 全く異なる走りの2台【ヴェゼル&CX-30比較試乗】

●より「SUVらしい」のは、VEZEL!

近年の国内SUV市場は、ヴェゼルが2015年に71,021台、2016年に73,889台を販売し、国産SUV登録車販売台数1位を達成、このジャンルでは1人勝ち状態でした。しかし、2016年末にC-HRが登場すると、2017年はC-HRが117,299台、翌年の2018年も76,756台を販売するなど、2年連続で1位となりました。2019年は2台の白熱した戦いとなっています。

ちなみに、2019年11月はヴェゼルが2,909台、C-HRが5,097台という状況。10月末に登場したCX-30は2,690台という状況であり、ヴェゼルといい勝負となっています。もちろん、CX-30は、デビューしたての話題のクルマであったため、「新車効果」で多く売れている影響もありますが、それでもCX-5(1,321台)の倍を売り上げているなど勢いがあります。

熟成されてきたヴェゼルと新進気鋭のCX-30。今回、この2台の操縦安定性や乗り心地、ロードノイズといった走りの違いを比較しました。

路面はウェット。時折、雨も降り、気温も5度のコンディション。

■高速直進安定性
■コーナリング
■乗り心地性能
■ロードノイズ
■動力性能
■走りの質感

■高速直進安定性 ヴェゼル・8点/CX-30・8点

少し重ためのステアリング操舵力、手を添えているだけですっと真っすぐ走るのは心地よい。

コンパクトSUVの中でもハイトを低く抑えたヴェゼル。直進性能が高く、中速から高速へスピードを上げても、ステアリングの落ち着きがあり、運転していて安心感が高いです。特に高速走行になると、やや重ために味付けされた操舵力が、ステアリングの中立位置を適度に守ってくれるため、ドライバーは小さな負荷でまっすぐに走行することができます。

操舵力は軽めだが、センターがしっかりとしており、直進性が高い。

CX-30も同様に、クルマ本来の持つ直進性のポテンシャルが高い印象があり、こちらも走行していて安心感があります。やや細めのステアリングホイールはグリップの形状が手に良くフィットし、またドライバーの視界が低いことで安定していると感じることができ、安心して走行できます。

また、どちらも横風耐性が比較的高く、さらには優秀なレーンキープアシスト制御も備わっており、筆者としては、高水準で「引き分け」という印象です。

■コーナリング ヴェゼル・8点/CX-30・8点

キビキビ曲がる印象はヴェゼルが上。

コーナリングに関して、2台の味付けは異なります。

ヴェゼルは低中速(〜60km/h)からやや重ための操舵力なのですが、応答ゲインは若干高めで、交差点やコーナーで機敏な動きをします。また、旋回中の切り増しや旋回中のブレーキングでも、「グラッ」とする様な不安定な挙動にはならず、安定性が非常に高いです。

ゆったりとロールをしながらジワリと曲がっていく印象がCX-30の特徴。

CX-30は、中低速から適度な軽さの操舵力であり、応答ゲインはやや低め、終始ゆったりとした動きをします。このため、2台とも最小回転半径5.3メートルと数字上は同じなのですが、CX-30はヴェゼルと比べると「向きが変わりにくい」と感じるでしょう。また、CX-30はコーナー中のギャップを上手くいなしながら、路面に張り付いたかのようなコーナリングする「乗用車ライク」な安定感があります。

「キビキビ」か「ゆったり」か、これには正解はなく、個人の好みによりますので引き分けとしましたが、元気な印象があるのは「ヴェゼル」、ゆったり落ち着いた印象なのは「CX-30」です。

■乗り心地性能 ヴェゼル・8点/CX-30・8点

ダンピングの効いた乗り心地で、振動のおつりがない。すっきりしている。

2台のサスペンションセッティングはどちらも高速道路などでのボディの上下動は少なく、「フラット」な乗り心地です。両車とも18インチの大径ホイールを装着していますが、路面の継ぎ目を乗り越した際に起きやすい、「バネ下のバタつき」は良く抑えられており、不快な振動もなく快適です。

試乗したヴェゼルツーリングに搭載されている「パフォーマンスダンパー」の恩恵があるのかもしれませんが、ボディにダンピングが効いているような印象をうけました。ただし、次項で取り上げるロードノイズはCX-30の方が静かに仕上げられている分、「ガツン」というような角のある段差を乗り越えても、若干まろやかに感じるのはCX-30です。

軟らかく突起を受け止めて、上手にいなす足回り。ロードノイズが静かな点も乗り心地の印象を上げている。

ただし、ヴェゼルはグレード別に16インチ、17インチのタイヤが選択できますが、CX-30は18インチのみ(※16インチはレスオプション)となります。ヴェゼルは17インチに下げれば、マイルドな突起乗り越しとなるでしょう。

■ロードノイズ  ヴェゼル・7点/CX-30・8点

ヴェゼルは低中速(〜60km/h)まではおおむね静かですが、高速走行となると常に「コー」というロードノイズが(不快ではありませんが)聞こえます。

対するCX-30は、低中速から高速走行まで常に静かな印象です。「コー」という音が若干聞こえる程ですので、1クラス上の高級車に乗っているかのような印象をうけます。前述したようにノイズが少ないため、突起乗り越し時のショックも丸くなったように感じられ、滑らかな乗り心地になったように感じます。

ちなみにファストバックボディのマツダ3の方がCX-30よりもさらに静かだった印象がありますが(※筆者はマツダ3へ9点をつけました)、音を発生するパネルの面積が大きいSUVボディと大径幅広の18インチタイヤで、このロードノイズレベルを達成しているCX-30には驚きを隠せません。

■動力性能  ヴェゼル・9点/CX-30・8点

エンジンサウンド、回転フィーリング、パワー感はヴェゼルツーリングが上。

今回のヴェゼルツーリングに搭載されている1.5リットルVTECターボエンジンはエンジンの回転上昇がスムーズで、そのフィーリングには心地よさを感じます。エンジンサウンドも中速以降で非常に軽快で、キビキビ走る印象です。やや早開きのアクセル特性のため、アクセルペダルの踏み始めからクルマが前へ「スッ」と出ていきますが、過敏すぎない範囲ですので扱いやすく、きびきびとした走行ができます。

エンジン自身が主張しない、静かで優等生タイプ。

CX-30の2.0リットルNAエンジンは、パワフルではありませんが扱いやすい実用的エンジンという印象です。回転上昇のフィールはスムーズですし、早開きのアクセル特性でもありません。ゼロ発進のアクセル踏み始めは穏やかな加速であり、エンジンを回していくと早めに息つく印象があります。ラフにアクセルペダルを踏んでもジェントルに走れます。

エンジンのフィーリングを味わいたいという方にはヴェゼルツーリング、エンジンの存在感よりも静かな走りを好む方にはCX-30、という分類になります。

■走りの質感 ヴェゼル・8点/CX-30・8点

ややロードノイズが聞こえるため、長距離ではCX-30よりは疲れやすい可能性。

いわゆる「走りの質感」とは、操安-乗心地-音振-動力性能といった「動性能の総合バランス」と筆者は定義しています。

その前提でみると、ヴェゼルは軽快なアクセルレスポンスとサウンド、そして軽快なハンドリング、硬すぎないサスペンションの設定、気持ちの良いエンジンフィーリングなど、走りの質感が非常に高い一台と言えます。ロードノイズがあと一歩静かであれば、9点とさせていただくところであり、動性能的に非常に魅力のあるSUVです。

質感は若干だがCX-30の方が上。静かで良く走るので、長距離には向いている印象。

対するCX-30は、ロードノイズの静かさ、抑え込まれたエンジン音、静かなセダンに乗ったような乗り心地など、上質というキーワードが似合うクロスオーバーSUVです。ただし、こちらも9点とならなかったのには、マツダ3ほどの静粛性を感じなかったためです。

マツダ3で感じた、「カーペットの上をローラーで走るような静かで滑らかな乗り味」があれば、さらに高い「走りの質感」となるでしょう。

※100点満点の評価は記事末尾に掲載しました。

■まとめ

登場後約6年目となるヴェゼルですが、その走りにはコンパクトSUVとしての魅力が依然としてあります。特にエンジンのフィールやサウンドに関しては、筆者はCX-30よりも魅力的だと感じました。SUVは荷物をたくさん積んで長距離を走ってこそ価値がある、という基準は王道だと考えています。「エンジンが主役」というヴェゼルツーリングに惹かれる方は多いでしょう。

CX-30は国内メーカーの中でも屈指の「静かで上質なSUV」です。ですが、その方向はすでに海外メーカーが先行しています。筆者としては、マツダ3で見せてくれた「癖のある乗り味」で、我々のようなクルマについて書く人を悩ませるような「驚き」がなかったのがやや残念な点です。

CX-30からマツダらしさを感じられるのが「素敵なデザイン」だけとなると、それはまた寂しいものです。その穴をスカイアクティブXエンジンで達成されているか否か、2020年1月下旬に登場する予定のCX-30 スカイアクティブXエンジン搭載車を楽しみに待ちたいと思います。

(文:吉川賢一/写真:鈴木祐子)

ホンダヴェゼルツーリング
■コーナリング性能 8点/やや重ための操舵力。応答ゲインは高く軽快、コーナーでは機敏に曲がっていく。旋回切り増しや旋回ブレーキングも安定性が高い。
■高速直進安定性  8点/車自体の直進性が高い。横風耐性も高く安定している。
■乗り心地     8点/ボディの上下動が小さくフラット。段差でのショックが若干ある。
■ロードノイズ   7点/一般道(60km/h)、高速(100km/h)共に概ね静か。不快ではないが常に聞こえる印象。
■エンジンフィール 9点/エンジンの回転上昇フィールがスムーズで心地よさを感じる。エンジンサウンドも中速以降で非常に軽快。
■加速フィール   9点/低速から早開きのアクセル特性だが、過敏すぎないので扱いやすい。
■走りの質感    8点/軽快なアクセルレスポンスとサウンド、そして軽快なハンドリング、硬すぎない足の設定、そしてエンジンが主役というクルマ。
■居住性      9点/前席は広く快適。後席も広い。ガラスエリアも広く、開放感がある。
■インテリアの質感 8点/ブラウンレザーの内装は上質感を感じる。ナビディスプレイがやや小さく低い位置にあるため、運転中は見にくい。
■コストパフォーマンス 8点/ツーリング専用の外装、内装のデザイン、そして18インチタイヤ、パフォーマンスダンパーなど豪華。300万円強で買えるとなるとコスパが高い。

□総合点 82点
SUVとVTECエンジンの組み合わせに魅力を感じる方におススメ。キビキビしたハンドリングとエンジンフィールを楽しめるSUVとしてレアな存在。先進安全技術系のブラッシュアップが望まれる。

マツダCX-30 20S Lパッケージ
■コーナリング性能 8点/適度は操舵力の重さで軽快、旋回切り増し、旋回ブレーキング安定高い。応答ゲインが低く軽快さがやや感じられない
■高速直進安定性  8点/横風耐性が高い。視界も低く安心感もある。LKASも優秀。
■乗り心地     8点/ボディの上下動は小さくフラット。段差でのショックは若干ある。突起音は静か。片輪段差乗り越しではリアからの左右振れをやや感じる。ホワイトのレザーシートが滑る。
■ロードノイズ   8点/一般道(60km/h)、高速(100km/h)共に静か。乗り心地も滑らかな印象。
■エンジンフィール 8点/パワフルではないが扱いやすく、回転の上昇するフィールもスムーズ。
■加速フィール   8点/ゼロ発進のアクセル踏み始めは穏やかな加速。エンジンを回していくと早めに息つく印象
■走りの質感    8点/良い。ロードノイズ、エンジン音が抑え込まれており快適。静かなセダンに乗った印象。
■居住性      7点/前席は広く快適。後席はSUVとしては狭く、ガラスエリアも狭いため圧迫感がある。
■インテリアの質感 8点/レザーのダッシュボードは丁寧なつくりで落ち着く。ナビディスプレイは運転中に見やすい高い位置にレイアウトされており運転時に便利。ヘッドアップディスプレイもGOOD。
■コストパフォーマンス 8点/この性能とデザインを300万円ジャストで提供したのは驚異的。

□総合点 79点
デザインに優れたSUV。背高のマツダ3そのもの。マツダ3よりも応答ゲインがやや上がり運転のクセは少なくなり、一般的なSUVに近づいた。荷室は後席倒しにしても数値程の広さはない。

※個別項目は10点満点、総合点は各項目を集計したものです。筆者個人の見解です。

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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