軽さというメリットから生まれた油冷エンジンは四輪でも活用できるか【週刊クルマのミライ】

■スズキの新世代油冷エンジンは軽くすることをロジカルに考えて生まれた

期間中130万人を集めたという2019年の東京モーターショー。会場が分かれたことなどから否定的な声も聞かれますが、これからドライバーになるであろう高校生以下の若者を多く集めるなど、明るい未来につながるモーターショーだったといえるのではないでしょうか。

また、二輪は各メーカーから注目のマシンが登場、ファンも大いに満足したようです。

そんな二輪の新モデルの中で、四輪的な目線で注目したのはスズキの「ジクサー」。その心臓部となる250ccの単気筒エンジンは、なんとスズキ伝統の油冷方式を採用しているのです。SOCSと名付けられた油冷システムは、潤滑と冷却を別系統とすることで、効果的に燃焼室周りの温度を下げつつ、水冷式よりも部品点数の少ないシンプルなメカニズムとしているのが特徴です。

スズキ油冷エンジン
新開発の油冷249ccエンジン。軽量化のためカムシャフトも一本だけ

「スズキといえば油冷、油冷といえばスズキ」というイメージもあるので、そうしたブランドを活かした油冷エンジンの開発かと思いきや、エンジニアの方にうかがってみると、それだけではないという話でした。簡単にいうと、軽量なエンジンを作るためにロジカルに考えた結果が、このエンジンだというのです。

そのポイントは冷却性能にあります。

エンジンの出力や用途から発熱量が決まり、そこから必要な冷却性能が導かれます。このエンジンの場合、仮に水冷にすると冷却水の容量が1Lほど必要になる計算だといいます。つまりラジエーターを考慮せずに1kgほどの重量増となるわけです。

一方、オイルを使った冷却であればエンジンオイルの増量分は250g程度で済むと計算されました。いずれにしてもラジエーターやオイルクーラーのコアは必要になりますが、そのサイズも油冷のほうが小さくて済みます。

エモーションな意味で油冷エンジンという響きに魅力を感じるかもしれませんが、論理的に考えてもこのクラスであれば油冷を採用することは「正しい面がある」のです。

SOCSパネル
スズキの誇る油冷システムはメンテナンスも容易

一般に四輪は発熱量が多いので、こうした油冷システムでは十分に冷やしきれないことが予想されますし、四輪への展開は考えていないということでした。しかし、電動化時代のエンジンというのは常に動いているとは限りません。たとえば、バッテリーの充電量が足りないときに発電を行なうレンジエクステンダーEVの場合、オートバイ用エンジンをベースとしているケースもあります。

常に発電するシリーズハイブリッドでは難しいでしょうが、レンジエクステンダーEVに使われるエンジンの負荷を考えれば、こうした油冷システムで十分にカバーできるケースが出てくるかもしれません。であれば、油冷エンジンのシンプルさや軽さというメリットは、四輪への搭載でも活きてくるはずです。

コンパクトカーに強いスズキだからこそ、油冷エンジンの可能性に夢が広がってしまうのです。

スズキ・ジクサー250(後)
スズキ・ジクサー250(後)

(山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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