【自動車用語辞典:吸排気系「ブローバイガスの還元」】燃焼室から漏れたガスを吸気に戻して再燃焼させる仕組み

■シリンダーとピストンの間から漏れたガスを処理する

●オイル量が増えるときは燃料混入を疑う

シリンダー内の圧力は燃焼とともに上昇し、その際少量ながら混合気や燃焼ガスがシリンダーとピストンの隙間からクランク室側に漏れ出します。この漏れたガスはブローバイガスと呼ばれ、ブローバイガス還元(PCV)システムによって、吸気に戻して再燃焼させます。

ブローバイガス還元システムの必要性や仕組みについて、解説していきます。

●ブローバイガスとは

圧縮・燃焼行程でシリンダーとピストン(正確にはピストンリング)の隙間から漏れるガスをブローバイガスと呼びます。

シリンダー内の混合気や燃焼ガスがガス抜けすると、その分エンジンの仕事量が減少します。通常ピストンには、シリンダーの気密性を保持するために2本のコンプレッションリングと、シリンダー内面の潤滑を制御する1本のオイルリングが装着されています。

シリンダー内圧力(燃焼圧)は、全負荷条件や過給条件で最も高くなります。燃焼圧が高くなると、燃焼ガスがピストンリングの隙間からクランク室側にガス抜けしやすくなり、ブローバイガス量が増えます。

●ブローバイガス還元(PCV)システム

ブローバイガスは、主に未燃燃料(HC)や燃焼ガス、オイルのミスト成分で構成されています。ブローバイガスが増えると、クランク内圧が上昇し、最悪の場合はオイルレベルゲージを押出し、ガイド穴から吹き出すなどの不具合を起こします。

ブローバイガス中の未燃ガスHCは、排出ガスの規制対象であり、また漏れると引火の恐れがあるので大気に放出できません。対策として義務化されているのが、ブローバイガス還元 (PCV:Positive Crankcase Ventilation) システムです。

●オイルへの混入

ブローバイガス中の未燃燃料の一部は、エンジンオイルに混入します。オイル温度が高いときには、混入した燃料はオイルから蒸発して、PCVシステムで処理されます。

一方、暖気途中でエンジンオイルが低温の時は、燃料が蒸発しないため、エンジンオイルが燃料で希釈され、オイル量が増加します。またオイル希釈は、潤滑性の低下につながり、エンジンの耐久性を悪化させるので注意が必要です。

●ブローバイガス還元システムの仕組み

PCVシステムでは、クランク室に溜まったブローバイガスをシリンダーヘッドのロッカーカバー内に導き、既定の圧力以上になったらPCVバルブ(逆止弁)によって、エンジン吸気管に投入して再燃焼させます。

ブローバイガスには、未燃燃料のほかオイルのミスト成分も含まれます。オイルミストが吸気管に吸入されると、吸気管内や燃焼室内にカーボンが堆積しやすくなります。また、オイル消費量が増えるという問題が発生します。

これを回避するため、PCVシステムではオイル分を分離して、吸気管に戻さないような対策が必要です。通常は、ブローバイガスが上がってくるロッカーカバー内にオイル分を分離するバッフルプレートを内蔵します。

それでも分離できない場合は、ブローバイガスの配管途中にオイルセパレーター(オイル分離器)を装着します。ディーゼルエンジンなど過給エンジンの多くは、オイルセパレーターを装着しています。

ブローバイガス完全装置
クランクケース内にたまったガスを吸気に導き再燃焼させる。右はオイルセパレーターを設けた例

最近は、ディーゼルエンジンだけでなく、ガソリンエンジンでも過給エンジンが増えており、ブローバイガス対策が必要になっています。

通常、エンジンオイルは走行距離とともに少しずつ減少しますが、増える場合はブローバイガスに起因するオイル希釈を疑った方がいいと思います。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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