【自動車用語辞典:燃料電池車「トヨタ・ミライの仕組み」】最新技術を集約してコストダウンを実現できた秘密とは?

■世界初の量産型燃料電池車

●燃料コストはまだ内燃機関よりも高い

トヨタ・ミライは、2014年12月に世界初の量産型燃料電池車(FCV)として販売が始まり、再び燃料電池に注目が集まりました。かつては1億円/台かかると言われた燃料電池車ですが、ミライは性能を大幅に改善しつつ、販売価格を723.6万円まで下げました。

最新の燃料電池技術を集約させたミライの燃料電池システムについて、解説していきます。

●ミライ燃料電池車のシステム構成

燃料電池車は、車載タンクに充填した水素と大気中の酸素を反応させて発電する燃料電池の電力を使って、モーターで走行します。EVの2次電池の代わりに燃料電池を搭載したシステムで、通常のガソリン車がガソリンを補給するように、水素を補給します。

燃料電池車は主として、燃料電池スタック(詳細については、別頁で解説)と高圧水素タンク、発生した電気を充電する2次電池、駆動モーター、モーターへの電力供給を制御するコントローラーなど構成されています。

個々の機能と役目については、以下で解説します。

●燃料電池スタック

固体高分子型の燃料電池スタックは、水素と酸素を化学反応で発電する燃料電池セルを、数百枚ほど直列接続して1ユニットにまとめたものです。

電池セルは、水素が供給される水素(-)極、酸素(空気)が供給される酸素(+)極と、2つの電極に挟まれた固体高分子の電解質膜で構成されています。

水素極で発生する水素酸化反応と酸素極で発生する酸素還元反応によって、電気が発生します。

水素酸化反応) H2 → 2H+ + 2e-
酸素還元反応) 2H+ + 1/2・O2 + 2e- → H2O

●高圧水素タンク

高圧水素タンクを2基搭載して、122.4Lの水素を高圧70MPaで貯蔵します。水素を密閉するプラスチックライナー、耐圧強度を確保する炭素繊維強化プラスチック層、表面を保護するガラス繊維強化プラスチック層の3層構造になっています。

炭素繊維強化プラスチックが高価で、コストアップの要因のひとつであるため、ライナー形状の見直しなどによって、炭素繊維強化プラスチック量を減らしています。

●パワーコントロールユニット

燃料電池で発生した直流電圧を交流に変換するインバーターと、駆動用バッテリーの電気を出し入れするDC/DCコンバーターなどで構成され、あらゆる運転条件で燃料電池スタックの出力と2次電池の充放電を制御します。

●燃料電池昇圧コンバーター

燃料電池スタックの発電電圧を650V程度まで昇圧するコンバーターです。

●エアコンプレッサー

ヘリカルコンプレッサーで、発電に必要な空気(酸素)を燃料電池スタックに供給します。

●駆動用モーターと2次電池

駆動用モーターは交流同期モーターで、減速時には発電機として機能させます。
減速エネルギーは、充放電可能なニッケル水素電池に充電して、加速時には燃料電池の出力をアシストします。

●ミライとガソリン車の燃料費を比較すると

燃料電池車の燃料費をHEV車、ガソリン車と比較しました。

・ミライ
水素販売価格1000円/kg、水素7.8kgで航続距離650kmなので、燃料費は13.0円/km

・プリウスHEV
ガソリン価格 130円/L、プリウスの燃費 40.8km/L、燃料経費は 3.2円/km

・C-HRガソリンターボ車
ガソリン価格 130円/L、C-HRの燃費 16.4km/L、燃料経費は 7.9円/km

燃料電池の燃料費は、現状ではガソリン車と比べても高いです。


燃料電池車として注目されたミライですが、販売価格がまだ723.6万円(補助金込みで520万円程度)と高く、水素インフラが進まないこともあり、2017年までの累計台数は約5000台と伸び悩んでいます。

具体的な課題としては、燃料電池スタックのコストが高いこと、水素ステーションが100箇所程度と不足していることです。またユーザーにとって燃料費が高いことも、現時点では燃料電池車の大きなデメリットです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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