【週刊クルマのミライ】痛ましい事故を防ぐため、ATで「N」から「D」に入れるときにブレーキ操作が必要?

■NからDにシフトする際にブレーキを踏む必要があるメーカーも。国産車もそうなるべき?

SNSなどで「プリウスミサイル」なる言葉が氾濫しています。トヨタ・プリウスの操作系が独特なため、それが原因で事故が多発しているという主張ですが、多くは個人の印象レベルで、なんらかのエビデンスがあるわけではないものがほとんどといえます。

最近では「プリウスのATは、ブレーキを踏まずにN(ニュートラル)からD(ドライブ・前進)に入れることができるのが事故の原因だ」という主張が流行り、検証動画をアップするユーザーもいるようですが、国産車のATでNからDにシフトする際にブレーキを踏む必要があるタイプは皆無で、プリウスに限った話ではないのです。仮に、そのように操作できることが問題だとすれば国産車のAT全般の課題ということになります。

たしかに、プリウスなどの電動車両ではシフトがNにあるときにアクセルペダルを全開にしても、ワーニングのブザーなどは鳴りますが、パワートレインは無反応なので、もしブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えた状態で、NからDに入れると意図しない加速をするのは事実です。

もっとも、プリウスタイプと呼ばれるシフト操作系(ホンダのハイブリッドカーや日産のe-POWERやEVも似た方式)では、Nに入れるためにはシフトを長押しするように右側に倒す必要があるため、起動時にNに入ってしまうクルマ(日産リーフなど)でなければNからDに入れるという作業自体がありません。

通常はP(パーキング)レンジからDにダイレクトに入れます。このときブレーキを踏んでいなければならないのは言わずもがなです。ですから、日常的にNレンジに入ってしまうことはありません。

だからこそ、意図せずにNに入ってしまったときにブレーキを踏むことなくDレンジやR(リバース・後退)レンジに入ってしまうことでドライバーが動揺するような振る舞いになってしまうという指摘をするユーザーがいるのであれば、それが事故原因のすべてとは思えなくとも、将来的に対策が必要であろうとは思えます。

国産車のAT全般が、NからDやRに入れる際にブレーキを踏む必要がない仕様となっているのは、それなりの合理性があるのでしょうが、けっして最適解ではないといえます。

実際、フォルクスワーゲンのAT(写真はザ・ビートル)ではブレーキを踏まないとNからDに入れることができません。だからといって操作しづらいという指摘の声が多いかといえば、そんなことはないようです。つまり、NからDやRに入れるときにはブレーキを踏む仕様にしたからといって操作性が悪化してクレームの声が大きくなるとは思えません。

停止時のクリープ現象を嫌ってNに入れて、パーキングブレーキをかけて信号待ちをしているというユーザーからは使いづらいといわれるかもしれませんが、EPBやオートホールド機能が普及している流れを考えると、もはや走行中にドライバーがNに入れるシーンはなくなることでしょう。

フールプルーフの思想で見直せば、NからDやRに入れる際にブレーキを踏むようにATの操作系を改善する余地はありそうです。それでも、逆にDからNに入れる際にはブレーキを踏む必要がないという現在の仕様は踏襲すべきでしょう。そうしておけば、暴走時に助手席からでもシフトレバーだけでNにシフトチェンジして加速を抑制することができるからです。

(山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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