【自動車用語辞典:排出ガス「概説」】環境や人体に悪影響を及ぼすガスを抑制する技術

■排出ガスの成分や影響を知ろう

●どんなクルマも排出ガス対策が必要

クルマの排出ガスは、環境や人体に悪影響を与えるため、成分ごとに排出量が規制されています。どんなに高性能な魅力的なクルマでも、排出ガス規制値をクリアしなければ、世に出ることはありません。

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンとの違いに注目しながら、排出ガスの有害性や低減手法について、解説していきます。

●排出ガス成分の何が有害か

自動車用燃料のガソリンと軽油は、原油から蒸留されたさまざまな「炭化水素CxHy」で、ガソリンはx=5~11(沸点30~220℃)、軽油はx=14~22(沸点200~350℃)の混合物です。

これらを燃料として、エンジンで完全燃焼すると、理想的にはCO2とH2Oになりますが、不完全燃焼を起こすと、CO(一酸化炭素)やHC(炭化水素)と、C(煤)を含んだPM(Particulate Matter:粒子状物質)が発生します。また、吸入空気中の窒素が酸素と結合して、NOx(窒素酸化物)が発生し、NOxは燃焼温度が高いほど増大します。これらのCO、HC、NOx、PMが有害物質として、排出ガスの規制対象です。

計測法と成分ごとの規制値は、国ごとに法規で定められ、日本では2018年10月からWLTCモード試験で燃費の計測と同時に行われます。

●人体・環境に与える影響とは?

排出ガスの成分のいったい何が有害なのでしょうか。

・CO

血液中のヘモグロビンと結合することで血液の酸素運搬能力が下がり、めまいや頭痛を起こし、最悪の場合は中毒症状によって死に至ります。

・HC

未燃の燃料で、HCは窒素化合物と光化学反応を起こし、光化学スモッグの原因となる光化学オキシダントを生成します。人体に有害で目を痛め、最悪の場合呼吸障害を引き起こします。

・NOx

大部分はNOですが、酸素やオゾンと反応してNO2になります。NO2は、人体に有害でオゾン層を破壊します。温室効果だけでなく、光化学スモッグや酸性雨の原因となります。

・PM

PMの主成分でもある煤の微粒子は、発がん性物質であり、肺などの呼吸器系障害を引き起こします。

●ガソリンエンジンの排出ガス低減

ガソリンエンジンでは、三元触媒を使って、空燃比(吸入空気重量/燃料重量)の高精度制御によって、排出ガスを低減します。三元触媒は、エンジンの空燃比を理論空燃比14.7近傍に設定すると、CO、HC、NOxを同時に浄化すことができます。そのため、排気管に装着した酸素サンサーによってフィードバック制御し、空燃比を精度良く理論空燃比に設定します。

●ディーゼルエンジンの排出ガス低減

ディーゼルエンジンは、高温の圧縮空気に噴射した軽油が蒸発しながら自着火する拡散燃焼方式のため、煤を含むPMとNOxが発生します。PMとNOxには、一方を減らすともう一方が増えるというトレードオフの特性があり、同時低減が最大の課題です。

PM低減にはDPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルタ)が、NOx低減のためにはNOx吸蔵触媒か、尿素SCR(選択還元触媒)が必要で、排気系(後処理)のコストが高くなります。

煤(黒煙)は、酸素不足の燃焼で発生し、NOxは燃焼温度が高い場合に発生します。ディーゼルエンジンは、局所的にみれば軽油の液滴周辺は燃料が濃い(酸素不足)領域が存在し、煤が発生しやすくなります。また、ディーゼルエンジンは圧縮比が高く、全体としては酸素が多いので高温燃焼になりやすく、NOxが発生しやすい特性があります。


ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの排出ガスは、その燃焼方式の違いから排出ガス成分も異なり、低減手法も異なります。本章では、両エンジンの違いに注目して、それぞれの排出ガスの特徴や低減手法、新しい規制RDEの動向の詳細について、個々に解説していきます。

(Mr.ソラン)

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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