【特別インタビュー】デザイナーが語る新型3シリーズ・セダンのデザインテーマはシャープ、モダン、そしてエモーショナル!

【BMWの伝統的な造形言語だけでなく、より先を見据えたデザイン】

1月30日、7年ぶりに国内発表された新型BMW 3シリーズ・セダン。一見キープデザインのボディですが、そこにはBMWの新しいデザイン言語が反映されているといいます。今回は特別インタビューとして、担当デザイナーのAlexey Kezha氏にその言語について語っていただきます。

── 最初に、今回の造形上のテーマから教えてください

「この7代目は、Dセグメントの中でもっともスポーティーなセダンであり、かつ新しいデザイン言語を提示する最初の一台と位置づけました。BMWのデザイン理念「Precision(精密)& Poetry(優美)」により、最小限のラインと彫刻的な面がスポーティさと存在感を融合、かつエモーショナルでモダンでもある。内装も同様で、コックピットの水平なラインがゆったりとした広がりを生み、新型のエレガントさを強調しています」

── 最近のBMW車に準じ、キドニーグリルは一体化されています。そもそも、その意図はどこにあるのでしょう?

「まず、スポーティで低く構えた新型のフロントは、BMWの伝統的な造形言語だけでなく、より先を見据えたものです。そして、左右のグリルを統合させた力強い「ダブルキドニー」は、歴代各モデルの古典的な表現を反映させつつ、もっと広い解釈で構成したもの。グリルのバーは先代に比べて幅広く、特殊なエンボス加工を施しています。この表面処理はグリルを高質でスポーティーに見せているのです」

── フロントランプの「切り欠き」はE46(4代目)のオマージュということですが、なぜ今回この表現を用いたのでしょうか。また、スバルやプジョーも同様の表現をしていますが、これは流行と捉えていますか?

「伝統的な「ダブルラウンド・ヘッドライト」は、これまでも3シリーズセダンのフロントビューをカタチ作ってきました。新型ではさらにスポーティーで明快な表現とし、ふたつの目が重なり合った表情はボディの流れとも同調しています。これは、決してトレンドに流されることのないE46の表現を範としているのです。グリルとヘッドライトの間の端正な面がフロントフェイスをより広く見せる一方、ボンネットはそのグリル上端とヘッドライトの形に沿うなど、ランプ周辺は細部にわたって注意を払った造形になっています」

── 先代に比べ、フロントランプの下のボリュームを減らしたことでバンパーが前に突き出たように見えます。同様に、リヤバンパーもより後方に出したように見えますが、これは何を意図したものでしょう?

「BMWのバンパーには「ラグジュアリー」「スポーツ」「Mスポーツ」の3つの表現があって、それぞれ異なるデザインアプローチをしています。「ラグジュアリー」「スポーツ」は、スポーティでありながら控え目でクリーンな表現。特徴的なNACAダクトは、ボディ前面と側面への光の当たり方をコントロールしています。一方「Mスポーツ」は機能性の表現がポイントで、 3つのエアインテークが高い冷却性能を持ちつつ、全体をスポーティに見せている。こうした役割の違いからバンパーの特徴を見ていただくのがいいと思います」

── 公式サイトでは、サイド面のキャラクターラインとその下の陰影はボディを薄く見せるとありますが、リアフェンダーの2本のラインは近接していて少々煩雑ではないでしょうか?

「新型のサイド面は、先代より大胆かつソリッドであることがテーマです。一方で、私たちはより少ない要素でもっとエモーショナルにしたいとも考えました。グラフィカルなラインではなくボリューム感、ハイライト、そしてリフレクションで見せる。周囲の風景により常に表情が変化し、面の光の動きによって見る人に新しい何かを発見させたい。具体的には、高い位置のショルダーラインはボディのコンパクトさを、リアタイヤ上部にある2本目は筋肉質のホイールアーチを強調します。さらに、ロッカーパネル上部の3本目は、サイド面の力感やリアホイールアーチの抑揚を含めたFRらしさを強調しているのです」

── 最後の質問です。新型は先代の端正さに比べ、各部に情緒的で有機的な面が目立ちますが、これからのBMWデザインはそうした方向を目指しているのでしょうか?

「昨年発表の新型8シリーズ・クーペでは、新しい造形言語により動的な美しさ、すなわちシャープでモダン、そしてエモーショナルな表現を宣言しました。鋭いキャラクターラインがグラフィックなサーフェスを強調し、かつての「折り目ライン」から進化したのです。将来的には、すべてのモデルが独自性を最大限に発揮し、新型ごとによりモダンで個性的なブランド作りが期待できます。新型3シリーズセダンでは、この新しいデザイン言語により、古典的なBMWのデザインアイコンを体系的に進化させることで再解釈したものなのです」

(語る人)
BMW3シリーズ デザイン・プロジェクト・マネージャー
Alexey Kezha 氏

(インタビュー・まとめ:すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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