【ホンダ・インサイト試乗】優秀なパワートレインで良い仕上がりの高品質セダンだが、もっとチャレンジを望みたい

【3代目もハイブリッドとして優秀な仕上がりも「特徴が無いのが特徴」?】

日本が誇る代表的なクルマの一台として、「トヨタ・クラウン」が思い浮かびます。そして、このクルマは誰もが「4ドアセダン」だとイメージできますよね。

しかし、今回紹介する「インサイト」は初代が3ドアハッチバックのスポーツカー、2代目は5ドアハッチバック、3代目はミドルクラスのセダンへと、大きく姿を変えてきたクルマです。

新型インサイトは、全長4675mm・全幅1820mm・全高1410mmで3ナンバーサイズ。メルセデス・ベンツ Cクラス セダンとほぼ同じ(全長4,690mm・全幅1,810mm・全高1,445mm)で、「ちょっと小さめなセダン」という印象です。

ちなみにホンダにはアコード(全長4945 mm・全幅1850 mm・全高1465 mm)がありますが、インサイトよりも全長が270mmも長いため、新型インサイトは、「もうちょっと小さいのが欲しい」といったお客様の要望に応えるラインナップを揃えた、といったところでしょうか。

ちなみに、ディーラー営業マンの方にきくと、新型インサイトを見に来るお客様はアコードのライバルとなるトヨタ・カムリと比較する方が多いそうです。小型でカッコよいセダンを求める層に刺さっているのでしょう。

パワーユニットはCR-Vやステップワゴンなどで実績のある「スポーツハイブリッドi-MMD」。1.5Lエンジンと駆動用モーター、ジェネレーターを備えており、「2モーター・ハイブリッド」とも呼びます。主に低中速では「EV走行」をメインに、高速では「エンジン」走行へと切り替えるパラレル方式です。ただし、高速走行時でもバッテリー残量に余裕があれば「EVドライブモード」になります。

エンジンの最高出力は109ps/6000rpm、最大トルクは13.7kgm/5000rpm、モーターの最高出力は131ps・最大トルクは27.2kgmと、数字の上では相当なパワーを発揮しています。

インサイトの良い所①:走行中や発電時でも静かな車内

インサイトはEV走行がメインで、しかも走行中のロードノイズも小さく「サー」と聞こえる程度と、とても静かです。発電のためのエンジン回転音は遠くで「ウー」とうなる程度であり、音質も実にジェントル。同じくエンジンで発電するノートe-POWERの発電時の「芝刈り機のような音」に比べたら、圧倒的におとなしく、いやな気分にはなりません。

こうした余計なノイズが小さいことは、インサイトが「良いクルマ」だと感じる、大きなポイントだと思います。

インサイトの良い所②:滑らかな加速

発進時は常にEV走行となるインサイトは、アクセルペダルの踏み込みに対して遅れも少なく、非常に滑らかな加速をする、ハイブリッドの見本ともいえる滑らかさです。エンジンで走行する制御に切り替わる高速道路での走行時もスムーズに加速をしていきます。ただし、リーフやノートe-POWERで感じる「モーターならではの爽快な加速フィーリング」はありません。また、加速力はノートe-POWERの方が速く感じます。

インサイトの「スポーツモード」に切り替えることで、ようやく電気自動車の「ノーマル」仕様並の加速力に届く感じです。個人的には、インサイトに元気な印象を持たせるために、出番の少ない「ECO」モードを廃止し、「スポーツ」モードを「ノーマル」モードにしてもよかったのではと感じます。

インサイトの良い所③:非常に優秀なホンダセンシング

現代において、前方車を捕捉して追従・減速するクルーズコントロールの性能はとても重要です。新型インサイトに装備されているADAS(先進運転支援システム)「ホンダセンシング」も非常に優秀で、ドライバーの運転の疲労を格段に軽減してくれます。筆者が高速道路を試乗中、自車の前方へ急に割込みがありましたが、「ホンダセンシング」による減速が的確に行われました。

また、ステアリングに介入する「レーンキープアシスト」は、ごく自然に「ククッ」とステアリングをアシストしてくれますので、ドライバーは嫌味に感じることなく優秀です。

インサイトの気になるところ:死角を大きくしている、巨大なサイドミラー

「どうして、こんなに大きいの?」と驚くほどに、巨大なサイドミラーが、前方下の視界を邪魔しています。デザインの関係で大きくしているのだと考えられますが、安全を蔑ろにしているような形状はいかがなものかと感じます。比較的目線の高さが低いインサイトですから、なおさら注意すべきではないでしょうか。

「デジタルサイドミラー」が登場する様な時代ですから、インサイトのマイナーチェンジではミラーの面積はそのままに、ミラーケースの大きさを小型化する等の改善を願います。

アコード、ステップワゴン、オデッセイ、CR-Vなどにも搭載されたホンダ自慢のこのハイブリッドシステムは、極めて滑らかな加速とリッター30kmに届きそうな燃費に、ホンダの高度な技術が感じられます。しかしながら、エントリーモデルの「LX」であっても乗り出し価格では370~380万円程では「良いクルマなんだけど……」という、ユーザーの心の声が聞こえてきそうです。

先進技術好きの筆者としては、燃費に対するホンダチャレンジングの「象徴」だった「インサイト」には、3代目にも可変スポイラーで空気抵抗を極限まで下げる形状にするなど、「スゴイ!」とうならせてくれる、「ホンダ」らしい何かが欲しかった、というのが本音です。

(文:吉川賢一/写真:鈴木祐子)

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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