新コンセプトカー「SUBARU VIZIV ADRENALINE CONCEPT」が示すスバルデザインの未来は0次安全とスタイリングの両立か?【ジュネーブモーターショー2019】

■2014年にはじまった「DYNAMIC x SOLID」が、2019年ついに次のステージ「BOLDER」へ

スバルのクルマに共通するものは?と聞かれて、何を思い浮かべるでしょうか。水平対向「ボクサー」エンジン、左右対称パワートレインの「シンメトリカルAWD」、先進安全装備「アイサイト」などなど具体的な技術が浮かんできます。それらの基本にあるSUBARUブランドの提供価値は「安心と愉しさ」です。そのために、具体的なテクノロジーが磨かれています。

そうしたブランド価値を表現するデザインの共通フィロソフィは「DYNAMIC x SOLID」というものです。しかし、2014年にスタートした、このデザインキーワードは新しくなるタイミングを迎えています。それが「BOLDER」です。すでに2018年7月に発表された新中期経営ビジョンSTEPで、このキーワードは発表されていましたが、ついに具体的な姿を表しました。「DYNAMIC x SOLID」をより「大胆」なデザイン表現に進化させていった新しいスバルのクルマはどのようなスタイリングになるのでしょう。

その、最初の答えが第89回ジュネーブモーターショーにて世界初公開されたコンセプトカー「SUBARU VIZIV ADRENALINE CONCEPT(スバル ヴィジヴ アドレナリン コンセプト)」です。前後のフェンダー部分にクラッキング処理を施しているのは「DYNAMIC x SOLID」によるSUBARU XVのそれと方向性としては同じですが、より大胆なスタイリングになっていることは一目でわかります。むしろ、フロントなどは実質的に樹脂フェンダーなのではと思えるほどです。

しかし、こうしたクラッキングは新デザインキーワードである「BOLDER」の本質的な価値ではないと思えます。あえてクラッキングをなくした状態を想像することで「BOLDER」の目指す姿を感じることができるでしょう。

【3本のキャラクターラインと引き締まったキャビンが新スタイルを示す】

フロントのクラッキング(樹脂パーツ)で隠されていますが、前後ドアを貫くキャラクターラインがバンパーから前後ドアの境目付近まで一直線に引かれているのが確認できます。そしてリヤドアの中ほどですっと下がるようにしてボディの中に溶けていっています。こうした処理は現行のスバル車に採用されている「DYNAMIC x SOLID」でも使われているもので、これまでのデザインフィロソフィーを否定することなく、着実に進化させていると感じられます。ドアの下部に見える後端で跳ね上がったキャラクターラインも同様です。

そしてフロントフェンダーを膨らませるような処理をされたキャラクターラインがコンセプトカーらしい提案を実感させます。現行SUBARU XVではフロントフェンダーから下がっているラインと水平ラインとで作っている世界観の新表現といったところでしょうか。このフロントグリルからフェンダーを通ってドアにつながるラインは、いったんボディに溶け込ませて、ふたたびリヤドアの上部から浮き上がらせているという風にも見えます。これこそ「BOLDER」としての表現と感じさせられます。

ドアノブもなく、面や線の表現を重視したデザインスタディといえるコンセプトカー「SUBARU VIZIV ADRENALINE CONCEPT」は次世代のスバルデザインを示しています。キャラクターラインが特徴的ですが、もうひとつ注目したいのはキャビンがコンパクトで、リヤドアのウインドウが小さく見えることです。スバルといえば視界を確保することを重視しており、それを「0次安全」という言葉でアピールしていますが、新コンセプトカーの「BOLDER」デザインでは「0次安全」をそれほど重視しているようには見えないかもしれません。

ただし、このコンセプトカーではドアミラーがカメラモニタリングシステムに置き換えられています。画角の自由度が高いカメラモニタリングシステムを上手に活用して0次安全とスタイリングを両立しているのだとすれば、そのあたりの技術的な処理も気になるところといえそうです。

(山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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