「何も起きない」安心感にスバル車の底力を感じた雪上試乗。日本を知り尽くしたクルマだから日本にマッチする【スバル雪上試乗会・その4】

●「日本車ならでは魅力と性能」が満載のスバル車たち

山形県で行われたスバルの雪上試乗会では、なぜスバル車が寒冷地で高い評価を受けているか? を探りました。丸一日かけて雪国を走った印象、そして説明を受けた技術についてまとめました。

スバル車に乗って雪国で丸一日を過ごしたなかでもっとも印象が強いのは「何も起きない」ということです。私のような東京在住の人間が雪国に行くとついついクルマを滑らせた走ることを期待し、滑らせたときのコントロール性の高さなどに注目しがちですが、雪国でクルマを使っている人達はそんなことを求めている人は数少ないでしょう。

日常の道具として使われるクルマは、朝には何事もなく家を出発し夕方には何事もなく帰ってくることがもっとも大切なのです。スバル車にはその底力を感じることができます。

そうした底力を実現しているのはシンメトリカルAWDによる高い安定性であり、VDCやアクティブ・トルク・ベクタリングなどによる制御、そしてアイサイトによる安全確保があると言えます。しかし、そうした“売り文句”になるような装備だけでなく、もっと地味な部分での装備の充実、まさに底力の高さがスバル車の魅力と使い勝手をアップしているのでしょう。

スバル車は雪国や寒冷地での使用を前提に作られています。それを証明するのは、スバル車は基本的に寒冷地仕様であるということです。ほかの自動車メーカーの場合は、一般仕様と寒冷地仕様があり、北海道や東北、本州の山深い地域用として寒冷地仕様を用意しています。寒冷地仕様はバッテリー容量が大きくそれに合わせてオルタネーターを強化、ヒーター容量を大きくしたり、ワイパーデアイサー(凍結時にワイパーとガラスが固着しないようにする装置)を装備するなどが行われます。

雪が降らない地域では無駄な装備またはオーバークォリティとなりますが、スバルはそれそ承知で行っています。群馬生まれのスバルは、たとえ沖縄に嫁いでもその魂は変わらないのです。

メディアの人間が雪道で試乗するとき、提供されるクルマはスタッドレスタイヤが装着された状態です。しかし、実際の使われ方ではスタッドレスタイヤではなく、タイヤチェーンを使う人もいます。4WD車でタイヤチェーンを装着すると、前後グリップバランスの崩れから不安定さが高まりますが、スバルではそうした点も憂慮して、各種チェーン装着時の安定性も確認しています。

また暖房系についてもステアリングヒーターの採用、シートヒーターの温暖範囲の拡大やリヤシートへの採用、暖房風吹き出し口の改善などにより性能を向上。ヘッドライトウォッシャーの装備などが行われています。

欧州車好きの人が「欧州車ならではの魅力と性能」に魅了されるのと同じように、スバル車には「日本車ならでは魅力と性能」があふれています。世界中の自動車メーカーやタイヤメーカーなどが日本での販売を重視するのは、日本人の厳しい商品評価にくわえて、日本の環境が厳しいからだと言われます。

夏は暑く、冬は寒い、新雪路もシャーベッド路も氷結路も存在する……そんな厳しい環境で認められたクルマやタイヤは世界で通用するというのです。スバルは生まれながらにして、そうした性能を持っているクルマだといえるでしょう。

(文・諸星陽一/写真・前田恵介)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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