【自動車用語辞典:燃費その3】2018年10月から日本でも採用された世界標準試験法「WLTC」とは?

■最新の燃費計測基準となるWLTCモード燃費

●WLTCが今後の世界基準となる

2018年10月から、新型乗用車の燃費・排ガスの試験方法が変更されました。これまでの「JC08モード試験」に代わり、国際的に統一された試験法「WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicle Test Cycle)」が導入されました。

新たに導入されたWLTCモードとは、どのよう試験法で、どのような目的で導入されたのか、解説していきます。

●旧JC08モードについて

モード試験では、シャシーダイナモメーターのローラー上で、実走行を模擬した走行パターンで走行させ、燃費と排出ガスを計測します。

これまでのJC08モード試験は、日本の一般的な走行実態を模擬した走行パターンでした。それ以前の10・15モードに比べると、最高車速、平均車速とも高く、またコールド(エンジンの冷えた状態)スタートからの計測を付加するなど、できるだけ最近の日本の道路事情を反映するようにしていました。

●なぜJC08モードからWLTCモードに変更したのか?

WLTCモードに変更された最大の理由は「試験法や基準値の世界標準化」の動きです。

これまでは、燃費・排出ガスの測定法や基準値は、国や地域によって異なっていました。特定の国や地域でクルマを発売する場合、自動車メーカーはそれぞれ固有の試験法で決められた基準値に適合する必要があります。これに対応するには多くの労力と時間を要すため、開発コストの上昇にもつながります。結果としてクルマの価格上昇になり、ユーザーにとっても不利益です。

世界標準の試験法と基準値があれば、多くの国や地域の燃費・排ガスの測定が一度の試験で済みます。これにより、仕様変更が不要となり部品の共通化が進みます。

このように、世界標準の試験法と基準値を制定することには、大きなメリットがあります。

●世界基準のWLTCモード試験とは

燃費・排出ガス試験法の世界基準「WLTC」は、国連欧州委員会の傘下にあるWP29(自動車基準調和フォーラム)で制定されました。クルマの燃費・排ガスを適正に評価する国際的に統一された試験法です。EUの新型乗用車では2017年9月から導入されており、日本は1年遅れで追従しました。

WLTCモード試験は、現行JC08と比べて「最高車速が高い」「加減速が多い」「走行時間や距離が長い」といった特徴があります。その他にも設定法変更による試験車重量の増加、コールド(冷態)運転割合の増加、アイドリング運転頻度の増加などの違いがあります。

走行パターンは、「低速(市街地走行)」「中速(郊外走行)」「高速(高速道路走行)」の3つのフェーズに分けられ、全体の平均燃費値とともに各フェーズごとの燃費値も表示することが義務づけられています。

これらの試験条件の違いによって、WLTCモード燃費の値はJC08モード試験に比べると若干悪化する傾向にあります。

なお本来WLTCモードは、前述の3つのモードに「超高速」フェーズを加えた4つのフェーズで構成されていますが、日本においては走行実態を踏まえて超高速フェーズを除外した3つのフェーズで構成しています。


WLTC導入の最大のメリットは、クルマの基準統一の実現により、メーカーが国際的な部品の共通化によってコストが低減できることです。その結果、将来に向けた環境技術の開発への資本投資が可能となり、ユーザーにとっても環境性能に優れたクルマを、より安価に入手できます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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