【週刊クルマのミライ】スバル・フォレスターを雪上試乗。e-BOXERの駆動制御に未来の可能性を見た

【パワートレインの制御がシャシーのセッティングに優っているe-BOXER】

2018年に登場したスバル・フォレスターは最低地上高220mmを確保した本格派のクロスオーバーSUVながら、舗装路でのハンドリングもシャープに仕上がっていたことが記憶に残る一台。「e-BOXER」と呼ばれるスバル独自のマイルドハイブリッドシステムを初採用したクルマとしても気になる存在です。

そんなフォレスターの2.0Lマイルドハイブリッドe-BOXERを積む「Advance」グレードと、2.5L直噴エンジンの「Premium」グレードを雪上で試乗することができました。主な試乗ステージは山形県の肘折温泉近郊。日本でも有数の豪雪地において、スバルの最新SUVはどのような走りを見せてくれるのでしょうか。

●2019年1月に話題となった生産休止問題は解決済み

その前に、フォレスターを含むスバル全車が2019年1月中旬からしばらく生産休止となっていた問題についてですが、スバルに取材したところ「ステアリングの部品に問題があったことは間違いありませんが、それはサプライヤーの特定ロットにおいて発生していた問題であると解明しています。現在は生産を再開しています」との回答を得ることができました。

特定の数日間に製造されたパーツに起きた不具合と解明するまでに念のために製造ライン全体を止めてしまうというのは、大きな判断ともいえますが、それだけ品質改善に向けての意思が強いということでしょう。完成検査における不適切事案をきっかけに企業風土から変えようとしているスバルの徹底した姿勢を感じます。

さて、ここからはフォレスターのスノードライブについて。今回は、e-BOXER(マイルドハイブリッド)と2.5Lガソリン直噴エンジンの走りについて比較してみようと思います。どちらもトランスミッションはリニアトロニックと呼ばれるチェーン式CVTで、駆動系はアクティブトルクスプリットタイプのAWD(常時四輪駆動)となっています。

●e-BOXERが実現した駆動力の細かな制御に驚かされた

先に試乗したのはe-BOXERの「Advance」グレード。さほど大きなモーターは積んでおらず、エンジンをアシストするタイプですが、雪上など滑りやすいコンディションにおいては、瞬時にトルクをコントロールできるというモーターの特性を生かしたセッティングをしているといいます。

そうした効果はスリッピーな路面での坂道発進などシビアなコンディションになるほど実感できます。この後に試乗したガソリンエンジン車と比べたときに、最初の動き出しでの安定感・安心感が違います。最終的に登れるかどうかといったレベルでの走破性については両車の差を感じませんが、動き出しでのスリップの有無が生み出す信頼感についてはe-BOXERに軍配をあげたくなります。

ただし、注意したい点もあります。駆動力の制御についてはきめ細かいのですが、それをシャシーやタイヤの性能と勘違いすると失敗のもとになりそうなのです。これだけ安定して発進できるのだから、ブレーキングやコーナリング性能も高くなっているのだろうと思って操作すると、さほど速度を出していなくてもステアリングを切っても曲がらない状態になってしまいます。

基本に忠実にしっかりブレーキングしてゆっくりと曲げる意識が重要になります。本質的にはシャシーの性能が高く旋回能力に長けたSUVなのですが、こと雪道では加速性能が良すぎて、そのギャップが気になります。

パワーがありすぎてトラクションを稼げないクルマのことを「シャシーにエンジンが勝ったクルマ」という言い方をしますが、フォレスターe-BOXERについては「パワートレインの制御が、シャシーのセッティングに優っているクルマ」といったところでしょうか。

旋回時においても回生ブレーキの前後バランスを調整するなど工夫しているというe-BOXERですが、さらなるシャシーセッティングの熟成を期待したいと感じたのです。

●ガソリンエンジン車は軽さが魅力。加速と旋回のバランスもいい

一方、ガソリンエンジンのフォレスターでは、エンジンとシャシーのバランスが非常に取れている印象を受けました。前述したように電気モーターの良さを引き出した領域だけで比較するとガソリンエンジン車は少々雑なパワートレインという印象も受けますが、そのおかげでトラクションのイメージが良すぎてハンドリングとの差を感じるようなことはありません。アクセル操作で感じたタイヤのグリップ感はコーナリング時にも同じイメージで走れます。

クルマとしての特性を意識せずに、乗りこなしやすいのはエンジン車といった印象です。いずれのパワートレインでもアンダーステアを早めに感じさせる味つけになっていますが、そこから舵が効くように復活させるのも、エンジン車のほうがイージーに思えます。おそらく、これは車重と前後バランスに由来する違いでしょう。e-BOXER「Advance」グレードは車重1650kg(前軸950kg・後軸700㎏)なのに対して、「Premium」グレードは車重1560kg(前軸900㎏・後軸660kg)となっています。ガソリンエンジン車のほうが前軸だけでも50kgも軽量になっているという絶対的な軽さはコントロール性に効いています。

現時点で比較した結論をいえば、雪道を安全安心におとなしく走るのであれば「Advance」グレードのほうが高いレベルにあると感じるでしょうし、積極的にスノードライビングを楽しみたいと思うのであれば「Premium」をはじめとしたガソリンエンジン車を選ぶことをおすすめするというものなります。

ただし、ハイブリッドのドライバビリティに貢献する領域における制御についてはまだまだ伸びしろが感じられます。発進性能だけでなく、減速やコーナリングにおいて回生ブレーキの前後バランスをもっと積極的に活用するなど、e-BOXERならではのスノードライビングが味わえることに期待しましょう。

(写真提供:SUBARU 文:山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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