【週刊クルマのミライ】電動車両は乗り味で内燃機関を超えることを新型インサイトが示した

●新型インサイトは「普通のクルマ」として上出来。電動車両のダイレクトさは内燃機関を超えた!

2018年12月に登場したホンダのハイブリッド専用車「インサイト」に試乗することができました。その第一印象は良い意味で「普通にいいクルマ」というもの。

外観からもハイブリッドカーらしさは感じさせない新型インサイトですが、走りそのものにもエコカー的なフィーリングはほとんど感じられません。市街地はモーター走行が基本というフルハイブリッドですから変速ショックがなく、アクセル操作に対する反応もダイレクトなのは電動車両ならではといえるものですが、レスポンスを適度に抑えることで、電動テイストを薄めているのがインサイトの特徴です。

結果として、インサイトの走りは「エンジンだから、モーターだから」という区別なく、このクラスとして普遍的に価値があると思えるものに仕上がっていました。アクセル操作に対するトルクの出方やリニアリティはエンジン車の理想といえる方向に仕上がっています。

内燃機関と変速装置が求めてきた駆動力の出し方を、新型インサイトは基本的に電気によってタイヤを駆動するシステムによって実現していると感じます。エンジン車でいえば、フラットトルクでレスポンスのいいエンジンと変速ショックがなく常に適切なギア比とできるダイレクト感のあるトランスミッションを組み合わせかのようなフィーリングを実現しているのです。そもそもモーターとタイヤの間に多段変速機構を持たないインサイトですから、ダイレクト感が内燃機関のそれを凌駕していることは言うまでもありません。

思えば、2018年における登録車のセールストップは日産ノートで、その人気はシリーズハイブリッドのパワートレイン「e-POWER」が支えています。ワンペダルドライブを実現した「e-POWER」の走行フィーリングは電動モーターらしさを強調したもので、そこには新しさも感じますが、内燃機関とは違う世界を見せています。そして、新型インサイトではもう一歩進んで、モーター駆動だから可能になった自由度を、普遍的に「良いパワートレイン」と感じられるように仕立てています。内燃機関より自由度の高いモーターは、いかようにでも味つけできるというわけです。

もちろん、インサイトはハイブリッドカーですから内燃機関を積んでいます。1.5Lエンジンに2モーターハイブリッドシステムを組み合わせています。そのエンジンはアトキンソンサイクル(高膨張比)エンジンであり、最大熱効率40.5%という世界トップレベルのユニットです。それでも市街地においてはエンジンを発電に専念させた(高速巡行時にはエンジンとタイヤを直結させる機構も持っています)ほうがシステム全体の効率にも優れるし、ドライブフィーリングの面でも有利なのです。

クルマの電動化は世界的なトレンドですが、新型インサイトが示したモーター駆動による緻密で力強い駆動フィーリングを味わうと、どんどん電動化は進むであろうこと、内燃機関だけで走るクルマは味つけの面でもアドバンテージを失いつつあることを感じます。むしろ内燃機関のクルマが目指してきた理想形はフルハイブリッドシステムを組み合わせることで実現できるというわけです。

(写真:小林和久 文:山本晋也)

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この記事の著者

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山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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