トヨタ・プリウスがデビュー20年。プリウスが切り拓いたバッテリー進化の歴史

欧州でいわれるクルマの「EVシフト」は、電気自動車だけになるという意味ではなく、部分的にも電気で動く「電動車」を対象としているという見方もあります。つまり、ハイブリッドカー、電気自動車、燃料電池車をひっくるめたEVにシフトしようというトレンドです。

ハイブリッドまで含めると、世界中で売れている電動車の43%(2016年実績)を占めるメーカーが日本にあることに気付くでしょう。プリウスやアクアといったハイブリッドカーで知られるトヨタ自動車です。なにしろ、初代プリウスのデビューは1997年。それから20年でトヨタが販売してきた「電動車」は1100万台以上と圧倒的です。

そして、電動化の肝となるモーター、バッテリー、パワーコントロールユニットといったシステムは、プリウスによって進化してきたといっても過言ではありません。今回、トヨタが開いた「電動化技術説明会」において、プリウスの歴代ユニットが一堂に集められました。その中でも驚かされるのはバッテリーの進化です。

会場には初代プリウスから現行プリウス(4代目)まで、搭載されたバッテリーがズラリと並べられていました。進化のポイントは、軽量化と容積の減少です。以下に各モデルに搭載されたバッテリーの、電圧(V)、電力量(kWh)、容積(L)、重量(kg)、セル数を記してみましょう。

初代(前期)ニッケル水素電池:288V 1.8kWh 95L 74kg 240セル
2代目・3代目ニッケル水素電池:202V 1.3kWh 37L 39kg 168セル
4代目ニッケル水素電池:202V 1.3kWh 35L 40kg 168セル
4代目リチウムイオン電池:207V 0.8kWh 30L 25kg 56セル

初代の前期型では単一電池サイズのセルを6本並べたものを40個組み合わせるというものでしたが、初代後期型から現行型までは角型モジュールを使うことで搭載時のスペースを大きく減少させることに成功しました。上の数字を見ればわかるようにバッテリー容積は6割以上も低減しています。その角型モジュール(ニッケル水素電池)は、2代目になるときに側面にアルミラミネートを設置、放熱性や水素透過防止の能力を進化させています。加えて、電極材料のアップデートも行なわれています。その成果として、2代目では入出力性能を向上、4代目では充電性能を引き上げるなどしています。

さらに2代目では昇圧コンバータを使う「THS2」に進化したことで、バッテリー電圧よりも高いシステム電圧が可能になっています。これもパフォーマンスに対して軽量コンパクトなバッテリーと進化するためには欠かせないポイントです。つまり、「小型、軽量、高入出力」の3つがハイブリッド用バッテリーの技術ポイントといえるのです。

バッテリーコントロールユニット(BCU)の最適設計による小型化も、バッテリーパックをコンパクトにするには効いています。初代・前期型では2388cm3だったBCUは、3代目で280cm3まで小型化したのです。現行のリチウムイオン用でも652cm3と、かなりコンパクト。

なお、BCUはバッテリーのコンディションも管理しています。ニッケル水素電池用のBCUは12セルをひと単位として、リチウムイオン電池用はセルごとに管理しています。すなわち、初代・前期のBCUは20chで、2代目以降のニッケル水素電池用BCUは14ch、そして現行型のリチウムイオン電池用BCUは56chとなっているわけです。

ハイブリッドと電気自動車ではバッテリーに求められる特性が異なるので、プリウス20年の経験がそのまま活かせるとはいえませんが、BCUでのノウハウなどハイブリッドで鍛えてきた技術力は、EVシフトに対応する原動力となりそうです。

(山本晋也)

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山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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