介護施設への送迎や地域主体の公共交通などに最適化した「ウェルジョイン」【進化する福祉車両・ウェルキャブ】

介護の一種、デイサービス。その送迎など介護施設への往復に利用されるクルマは、マイクロバスからミニバンまで多岐に渡り、車いすの乗降ができる福祉車両から通常の座席をベースにしたものまで、その仕様も多岐に渡ります。このうち、ミニバンは導入のしやすさや、各戸近くまでのリーチのしやすさなどから、重宝されています。

比較的コンパクトなボディに多人数を乗せられるミニバンは便利ですが、多くのモデルがサードシートへのアクセスのために、セカンドシート右側のシートを動かす必要があります。

そのため「フル乗車」になると、乗り降りが不便になるケースが出てくるのは仕方がないところ。特にセカンドシートの左端の席は、ほかの誰かが乗り降りするとき、一度は降車しなくてはならない状況になりがち。足腰が弱くなっている搭乗者が多いと大変です。

もちろん、送迎順のオペレーションで解決できる場合もありますが、毎回うまくいくとは限らないものです。さらに、場合によっては運転者が乗降のたびにセカンドシートの出し入れ操作をしなくてはならない場合もあるかもしれません。

これでは、介護される側も、介護する側も負担が大きくなってしまいます。

そんな状況を解決するためのシートレイアウトがウェルジョインにありました。

ウェルジョインは標準的なミニバンのシート配置とは異なり、サードシートへのアクセスルートを常時確保したレイアウトが特徴です。2+2+3の7名乗車となるシートレイアウトで、専用となるセカンドシートは、右に寄せられてサードシートへの通路幅を確保(350mm)しつつ、しっかりとした2名分のシートとなっています。

加えてスライドドアやセカンドシートに標準装備で手すりがついており、車内外での移動もしやすくなっているのもポイント。乗り降りのサポートが必要ないケースも増えそうです。

このウェルジョインが開発された背景には、地方自治体の取り組みであるボランティア・タクシーへの貢献もあります。

ボランティアタクシーとは、地域で行う移動支援。

国土交通省による路線バスの収支データ、2013年度で、その7割が赤字となっており、2000年前後から毎年約1万キロの路線が廃止されています。そこで、路線バスなどの公共交通がなくなった地域で、代替交通手段として、地方自治体のサポートによるコミュニティバス(自治体バス)や乗り合いタクシーなどの運行がされています。その形態のひとつにボランティアタクシーがあります。

このうち、トヨタが支援している兵庫県豊岡市の豊岡市では、地方自治体が用意したクルマを借りるというカタチで、地域住民がボランティア運転手として運行しています。主だった用途は、高齢者を主とした地域住民の通院、買い物など外出の支援。従来は通常のミニバンが使われていましたが、乗車地も目的地もバラバラな利用者が搭乗するため、奥に座った人を下ろすのに、他の搭乗者に一度降りてもらうなどというケースもありました。

今回、この豊岡市のボランティアタクシーでも、ウェルジョインが導入されました。ウェルジョインのシートレイアウトは、利用者の負担はもちろん、ボランティアスタッフの負担軽減にもなり、このボランティアタクシーの継続に役立っているといえそうです。

古川教夫

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この記事の著者

古川教夫 近影

古川教夫

1972年4月23日生。千葉県出身。茨城大学理学部地球科学科卒。幼稚園の大きな積み木でジープを作って乗っていた車好き。幌ジムニーで野外調査、九州の噴火の火山灰を房総で探して卒論を書き大学卒業。
ネカフェ店長兼サーバー管理業を経て、WEB担当として編プロ入社。車関連部署に移籍し、RX-7やレガシィ、ハイエース・キャピングカーなどの車種別専門誌を約20年担当。家族の介護をきっかけに起業。福祉車輌取扱士の資格を取得。現在は自動車メディアで編集・執筆のほか、WEBサイトのアンカー業務を生業とする。
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