御料車として使用された「溜色のベンツ」【意外と知らないクルマメーカーの歴史・メルセデス・ベンツ編】

いわゆる高級車の一つにリムジンがあります。路線バスに匹敵するほど長いボディをもち、眩いばかりのネオンやフカフカのソファなどでド派手に飾られた車内で乗客は冷えたスパークリングワインを楽しむ……。

そんな動くクラブのようなリムジンは、芸能人やセレブだけでなく、現在ではレンタルも可能であり女子会などで使われています。

しかし、そのようなクルマとは一線を画すクルマがあります。それが皇族の方々が乗られる「御料車(ごりょうしゃ)」です。1912年に初めて導入され、現在はセンチュリーロイヤルが用いられています。

いまでこそ国産車がその重要な役割を担っていますが、1932年にはメルセデス・ベンツの「770」が用いられていました。

1930年に登場した同車は、まさにメルセデスにおける最高級車であり、その生産台数は117台と極めて稀少なモデルでした。

エンジンは7.7L 直列8気筒を搭載。通常の出力は150psと控えめですが、さらに加速が必要な時は搭載するスーパーチャージャーが作動して200psを発揮。その独特なサウンドは「ワルキューレの雄叫び」に例えられたといいます。ただし日本に導入された7台はスーパーチャージャー搭載車ではなく150psの大人しめのバージョンだったそうです。

ちなみに、現在の御料車である「センチュリーロイヤル」では、乗降に便利な観音開きや後席を見やすくするためにガラスエリアを広げるといった特別な工夫が凝らされています。「770」も、後席に西陣織をふんだんに使い、フロント や後部ドアに菊の御紋章をあしらい、さらに防弾装甲ボディやパンクしないタイヤなど、特別な装備が施されていました。

(今 総一郎)