「おおっ!手に汗握る展開だ!」室屋選手が千葉戦をレビュー【レッドブル・エアレース2017】

レッドブル・エアレース2017千葉大会を連勝・連覇で通算3勝目を挙げた室屋義秀選手とミカ・ブラジョヨー選手 に、東京・銀座のスタジオブライトリングでお話を伺いました。

ブライトリングのメンバーイベントの前だったのでフライトスーツはブライトリング仕様です。

Q:千葉戦の感想は?

室屋選手:今回は苦しい展開でした。そんな中で勝ち抜けたというのは、ミラクルな展開が一杯あって見えない力に支えられたかなという勝利でした。その力は観客の方々の声援だったリ正に見えないものですが、ラウンド・ オブ・14での千分の7秒差の勝利は70cm。ラウンド・オブ・8でも先に飛んだ自分がペナルティをもらってしま いましたが、相手(ホール選手)もペナルティをもらいました。ファイナル4でも結構ペナルティが絡んだので、 自分の実力だけではない何かで勝たせてもらったと感じますね。

Q:千葉の海岸線に作られるコースは過去2年は直線的なコースでした。今年はテクニカルな「回り込むターン」が設けられましたが?

室屋選手:機体の特性はサンディエゴに合っていて、ほぼ狙ったタイムで飛べました。結果として結構引き離して勝ちましたが、千葉でそれは出来なかった。

……サンディエゴでは感覚的に”ゾーン”と呼ばれる領域まで集中できたそうですが、千葉ではその領域まで研ぎ澄す事はできなかったそうです。世界を闘うアスリートにとって母国イベントのプレッシャーは大きいといわれますが、エアレースも例外ではないようです。過去に母国戦を連覇したのは、現在解説者で19勝を挙げている「ミスターエアレース」こと、ポール・ボノムさんだけ。室屋選手が2人目という偉業です。

Q:勝利の実感はいつ湧きましたか?

室屋選手:終わった直後は飛行機から降り、1位という結果が出た途端に表彰式・プレスカンファレンスと一気に続くので優勝の実感はあまり湧きません。

月曜の朝に思い返しつつTVを見ると「おぉ!すごいなぁ」「手に汗握るなぁ!」と(笑)。もちろん、当日も僅差で凄いのは判っていましたが、これほどとは思いませんでした。

勝とうと思ってやってきて、2連勝と千葉2連覇かと注目を浴び・声援を受ける中で、本当にそこに届いたので嬉しいです。今、若干気が緩んで、力が抜けちゃっています。ちょっとリラックスさせてもらっています。

Q:予選前に「今年は練習と同じように飛ぶ」といわれ、プラクティスでトップタイムを出したサンディエゴの時と異なる慎重な飛び方をされていたようですが?

室屋選手:今年のレースのプランはどのレースでも変わりません。もちろん「タイム縮めるにはここでもう少し…」というようなポイントは沢山あるので、見直しは行います。しかし、大きく変化させないことと、リスクの高い「ここ一発のチャレンジはやらないと」ことを心掛けました。

Q:先攻・後攻はどちらが有利でしょう?

室屋選手:理論的には後攻の方が有利だと思いますが、精神的には(先攻で)クリーン(力み・考え過ぎず)に飛べるかなぁ、と思います。特にこの2戦(サンディエゴ・千葉)で実感しました。

今回のファイナル4のように先に驚くほどではないけれど、好タイムを出されると後から飛ぶ選手は皆相当プレッシャーがかかります。今回もパイロンヒットなどペナルティを犯しています。しかし、あと1秒遅いタイムだと、ミスはしてくれません。

ラウンド・オブ・14でも本当はタイム的にもう少しゆとりを持って勝てるつもりでしたが、トラックのタイムが (風の影響で)落ちていたのと、コプシュテイン選手がファイステストルーザーとして勝ち残る程速かったので、ドキドキしました(笑)

……会場のTVスクリーンも差が”0.00″と表示され、同着に映り会場がザワつきました。

Q:ラウンド・オブ・8の後に「元の戦略に戻す」とコメントした室屋選手。ラウンド・オブ・8では「戦略通りで はない」何を行ったのでしょう?

室屋選手:ラウンド・オブ・14での自分のタイムを対戦相手のマット・ホール選手のプラクティスタイムと比較して、このまま戦うのは難しいと思い、ほんの少しペースを上げました。

具体的にはゲート7への進入角度を大きくとると次の大きなターンが速くなります。角度は許容範囲内に納めたつもりでしたが、その際の風が予想以上に強く、しかもゲートに押される様に吹いたので、切り替えした瞬間(パイロンに)予想より数メーター近く、パイロンヒットを避ける為に戻したのですが、姿勢の回復が間に合いませんでした。パイロンヒット(3秒加算)かインコレクトレベル(2秒加算)かどちらかでした。

風の影響ですが、機体の旋回性能にゆとりがあれば回避できたのかもしれません。戦略に組み込むには難しい領域です。

……当日、現地の風の強さだけでなく、向きも刻々と変わっていました。目に見えない風・何も掴んだり支えたりできない中で闘っている競技の難しさが伝わります。

Q:プラクティスではセクタータイムが一カ所だけ極端に遅かったり、総合のタイムで上位に顔を出さなかったようですが、何かを試みていたのでしょうか?

室屋選手:そうですね。そこまで見てる人は少ないんですが(苦笑)。

タイムが落ちるのは判った上で、意図的にラインを変えていました。見える周囲を確認したり、セーフティーラインにどこまで近づいたらペナルティを取られるかなど試しています。

他のパイロット達は特別速いタイムを出したりしますが、本番ではアウト(ペナルティのリスクが高い)だとか、実際はラインを越えてるとか、一概に比較できないのですが、そういう事を試していました。

Q:サンディエゴでは「相手がソンカ(前戦優勝者)だからってなんだ!一番速いのは俺達だ」という強気のコメントがラウンド・オブ・8の対戦前に聞かれました。これは相手にプレッシャーを掛けたり、チャンピオンシップを優位に戦う為の「かけひき」だったのでしょうか?

室屋選手:それは駆け引きという訳では無く、参戦しているメンバーは全員が自信満々で喋ります。14番目のパイロットだって「どこそこの調子が悪かったからしょうがないんだ」といった感じです。それはメンタルのつくり方の大事な手法で「誰かと戦う前に自分自身を前向きにしておく」という事ですね。

Q:それは自分を奮い立たせると云うことでしょうか?

室屋選手:「勝てないかもしれないけど勝てるかな…」といった状態では勝てない。勝つことに前向きになっておくということです。時には負けるかもしれない、けど勝つと思うことで出来る事をやるしかないです。

Q:今年は表彰台が浦安のパブリックビューイング会場に作られました。過去2年は仮設ハンガー(格納庫)の隣で、沢山といえるほどの人に囲まれなかったかと思うのですが、今回はいかがでしたか?

室屋選手:あれは最高の表彰式でした。滑走路・ハンガーとレース会場が離れている(観客と表彰台が離れている)場合が多く、それはしょうがないのですが、今回は仮設飛行場のそばにパブリックビューイング会場が設けられ、そこで表彰式が行なわれたので非常に盛り上がりました。日本ですし、それは「特別」でした。

Q:今シーズンの今後の課題について聞かせて下さい。

室屋選手:まだあと5戦あります。レース終了の2週間後に次の場所へ行って、同じ事を繰り返す。ネバーエンディングなのでシーズン後半はチームスタッフにも疲れが蓄積します。チーム全体のモチベーションをキープし、マネージメントしていく事も必要になります。

後半戦は回り込みの大きなコースレイアウトが増え、機体特性上ウイングレット装着機が有利になるため、中盤戦でポイントを稼ぎ、リードを保って終盤戦にいどみたいとの考えだそうです。

最後に日本のファンへのメッセージを頂きました。

室屋選手:3戦が終わり、2連勝という良い形で終わりましたが、まだこれから5戦あります。これからヨーロッパラウンドで苦しくなるので、これからが勝負です。引き続き、ご声援をお願い致します。