アウディA3セダンの二重人格は雪道で現れる【試乗03】

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今回、北海道でスタッドレスタイヤを履いたA3セダンの「1.8TFSI quattro」に乗ってみました。その印象をひとことで言うと「何にも起きない安心感」。変な言い方ですが、何にも起きないんです。

このクルマには「quattro(クワトロ)」と呼ぶ4WDシステムが付いているんですが、これが秀逸。たとえガバッとアクセルを踏んでも「クワトロ」システムが絶大なトラクションを得るのでホイールスピン(加速時のタイヤの滑り)とは無縁で、まるで舗装路の上を走っているかのようにクルマが加速していくんですから。クルマが曲がっていくんですから。

車両のスリップを防ぐESPの働きもあり、氷結路で無理なコーナリングをしない限りは素晴らしい安定感です(っていうか、氷結路で無茶をするとどんなクルマだって滑りますって!)。正確にいうと、クワトロを搭載したA3セダンは滑るまでのマージンが高いのがさすがなんです。

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A3セダンに組み込まれている4WDシステムのトランスファーは、「ハルデックスカップリング」と呼ぶ電子制御式マルチプレートクラッチ。通常はトルクのほとんどを前輪へ供給し必要に応じて後輪へ力を振り分ける、いわゆるオンデマンドタイプのシステムです。ハルデックスカップリングはサプライヤー(ハルデックス社)による部品でアウディ以外にも多くのメーカーに組み込まれているんですが、アウディは電子制御プログラミングの大部分を書き換えていて、一般的なポン付けタイプとは動きが大きく異なるんだとか。だからアウディでは「クワトロ」と胸を張って呼んでいるんです。

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具体的にいうと、クラッチを動かすための油圧を常にスタンバイさせてレスポンスを高め、タイヤの回転差だけでなくアクセル開度によっても後輪へ積極的にトルクを配分していく制御がアウディ流。ちなみに、前後のトルク配分は通常域では95:5から50:50に近い状態となりますが、(前輪が完全にスリップするような状況では)最大でほぼ0:100にもなるんだとか!!

で今回、クローズドの雪道コースを走れたので、ここぞとばかりにESPを切って元気よく走ってみました。

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……すんごいコントローラブル。右足(アクセル)でクルマの挙動をコントロールできちゃうんです。

腕に覚えのあるドライバーなら、コーナー進入時に上手にヨーをかけてドリフトに持ち込み、コーナリング中はアクセルでドリフトアングルを自在に制御できちゃう。ヒャッハー!

FFベースなのにここまで楽しい走りができるのもさすがクワトロ。アクセルを踏み込む(=ドライバーが走りを楽しんでいると判断する)と積極的に後輪へトルクを送る味付けが、こうしてドライビングを積極的に楽しめる特性を実現しているというわけですね。アクセルコントロール次第では、ゼロカウンターのクールなドリフトだってできちゃう。

普段は堅実(強固なグリップで安定)なんだけど、スイッチを切り替えた瞬間(ESPをオフにした瞬間)にとってもハジけられる正確になる。雪道で乗ったアウディA3セダンはそんな二重人格なやつでした。そんな二重人格、大歓迎です。だって安全かつ超楽しいんだもん。

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(工藤貴宏)

この記事の著者

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工藤貴宏

1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに執筆している。現在の愛車はルノー・ルーテシアR.S.トロフィーとディーゼルエンジンのマツダCX-5。
AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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