ジウジアーロ、デ・シルバが語ったVW「Golf」デザインの真髄とは?【動画】

2012年11月に欧州で発売された新型ゴルフが今年3月に「ワールドカーオブザイヤー」を獲得。

正に「最高のクルマ」として世界で認められた訳ですが、ニューモデルに新鮮さを強く求めがちな日本人の目からは今度のGolfの変化は限定的なものにしか映らないかもしれません。 

VW Golf GTI

ましてや「Golf」というクルマに全く興味が無い人にとっては新旧2台並べて比較してみないと何処がどう変わったのか判らない可能性も。  (下画像左が新型)

 VW Golf GTI VW Golf GTI

「Golf」のファンやオーナーなら勿論一目で見分けがつく訳ですが、このクルマをVWはどんな思いでデザインしたのでしょうか。 

その答えがプレス発表会のトークショーでVWのデザイン全体を統括するイタリア人デザイナー「ワルター・デ・シルヴァ」氏によって熱く語られました。 

VGJ(VWグループ ジャパン)がその様子を動画で公開しています。 

発表会には初代「Golf」、初代「Passat」、初代「Scirocco」のデザイナーであり、いすゞ117クーペやアルフェッタ、デロリアン等の名作を手掛けたことでもお馴染みの「ジョルジェット・ジウジアーロ」氏も来日参加。 

トークショーの司会はAudi在籍時代にA1やA5、A6、A7、Q7など数多くのモデルを手掛けた日本人デザイナー、和田 智(さとし)氏が担当。 実は和田氏、Audi在籍時代の上司がデ・シルヴァ氏という間柄。

VW Golf トークショー

そんな氏がマエストロ(巨匠)として尊敬して止まない両人に向けて難しい質問を投げかけます。 

-あえて先代までのコンセプトを受け継ぐデザインとした真意は?

<デ・シルヴァ>
・Golfをデザインするという事は大変な重責。何故なら、従来のデザインを守りながらも繰り返しにならないよう進化させなくてはならない。 

・Golfの生産台数は3,000万台に及んでおり、誕生から40年近い歴史を持つこのクルマは既に「ポルシェ 911」と並んで継承すべき「文化遺産」と化している。 

・意表を突くような外観では無く、アイデンティティーを維持し、歴代モデルとの間に 一貫性の有るフォルムを持たせる事に重点を置いている。 

・Golfの競合車は常に変化し、新しい物を追い求めているが、我々は 逆に色褪せることの無い、時代を超えて連綿と受け継がれる卓越したデザインを追求している。 

ワルター・デ・シルヴァ

-日本のカーデザイナーは上司から「お前のデザインは普通っぽい」
  と言われることを 最も恐れるがあまり、どうにかして目新しさを
 出そうと「変える」事が中心になってしまっているが、本来の
 デザインとはどういうものなのか? 

<ジウジアーロ>
・誰もがパッと目を引く奇抜な物を求めがちだが、それはそう長く続かない。 子供や孫がどこか親に似ているのと同じように、新しいクルマをデザインする時はまずそのクルマが属するファミリーの特徴キープしなければならない。 

・映画に出た女優を初めて見たときは綺麗だと思えなくても、月日の経過と共に「いいなあ」と思うことが有るように、直ぐには理解出来なくても時が経てば判って来るものもある。大きく変える事が重要なのでは無く、大事なのは心の中に入り込む事。 

ジョルジェット・ジウジアーロ

-お二人にとって「美しさ」とは何か? 

<デ・シルヴァ>
・美的価値は自身にとって世界を良くする唯一の物。美しい物を求めない人などいない。誰でも美しい物が欲しい。美は倫理であり、正しい比率、美的バランスを知っている事でもある。 

・美は代々教育されて来たもので後世に伝えて行くべきもの。バランスの取れたより良い世界に生きるのが自分達の願いであり、美は世界を良くするのに多大な貢献をする。美とは絶対的な価値。これは本来、日本では特に強く意識されている筈。 

<ジウジアーロ>
・美しい風景を見ているだけで心地良くなるように、クルマも丁寧に最大限の注意を払って作られていなくてはならない。美は数学的な完璧さの上に成り立っている。美しく作らないと公害のように視覚を汚すことになる。 

-日本やアジアでは社会状況の中で「美しさ」の概念が減って来ている
 気がしているが 、お二人はどのように感じているか? 

ジョルジェット・ジウジアーロ

<ジウジアーロ>
・日本人は繊細な感性に長けており、建築、ライフスタイルなどで確固たる美学の 伝統が有る。だから美の概念が減っているとは俄かに信じ難い。 

・クルマは海外から入って来たものなので、当初は日本人のメンタリティや感性では理解出来なかった為、まずはアメ車を参考にした。その結果、日本車はアメ車のダウンサイズ版みたいになった経緯が有る。 

・その後日本人は欧州の視点でクルマを見るようになり、「高品質」という驚くべき方法で欧州を凌駕した。結局今度は欧州が日本の完璧な仕事を学ぶ為に努力を強いられる事になった。 

・つまり、「美」は今も日本人の心の中に有るということ。マーケティング部門から色々と要求が来ることも有るだろうが、これまでどおり、きちんと仕事をして行けば良いと思う。ただ、過度にオリジナリティを追求しないこと。やり過ぎると悪趣味に成りかねない。 

<デ・シルヴァ>
・倫理を守れば必ずや高度な美的成果に到達する。流行に捉われないように気を付けなければならない。美しいクルマを作るには高額の投資が必要なので企業や消費者の為にも6~7年は持たせなくてはならない。

・クルマはリニューアルまでのサイクルを見越して設計すべき商品。数ヶ月置きに目先を変えて人目を引くのは良くない。それで良いものが生まれる筈は無い。

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以上のように、彼らが過去の作品に敬意を払い、優れたコンセプトをきっちりと受け継ぐ姿勢をブレずに貫いて来た事が現在のVWのブランド力の原点になっていると言えそうです。 

奇抜さや目新しさに走るのでは無く、本当の美しさを追求し続けることが非常に重要だという事を、芸術の国イタリア人の彼らが言葉巧みに現代の日本人に忠告してくれているのかもしれません。 

VW Golf GTI

■新型 Golf Webサイト(本国)
 http://www.volkswagen.de/de/models/golf_7.html 

■新型 Golf Webサイト(日本)
 http://new-golf.jp/index.html 

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Avanti Yasunori) 

【画像ギャラリーをご覧になりたい方はこちら】  https://clicccar.com/?p=225370

この記事の著者

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Avanti Yasunori

大手自動車会社で人生長きに渡って自動車開発に携わった後、2011年5月から「clicccar」で新車に関する話題や速報を中心に執筆をスタート、現在に至る。幼少の頃から根っからの車好きで、免許取得後10台以上の車を乗り継ぐが、中でもソレックスキャブ搭載のヤマハ製2T‐Gエンジンを積むTA22型「セリカ 1600GTV」は、色々と手を入れていたこともあり、思い出深い一台となっている。
趣味は楽器演奏で、エレキギターやアンプ、エフェクター等の収集癖を持つ。
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