日本の自動車各社が中国産レアアースからの脱却を加速 !

ハイブリッド車などのモーターや駆動用バッテリーに使われる「レアアース」は日本の先端技術商品にとって無くてはならない重要な材料として知られています。

 2010年9月の漁船衝突事件の直後に中国が日本などへのレアアース供給を大幅に制限したことで価格が高騰し、一時は米国を含めて世界の市場が大混乱に巻き込まれました。 

レアアース鉱床 (出展 ロイター)

しかし、2年経った現在ではそんな状況も変わりつつあるようです。
と言うのも、レアアースを使わない安価なモーターレアアースのリサイクル技術などが開発され始めたからです。

ハイブリッド車やエアコン用の高性能モーターに使う磁石は主原料の鉄に磁力を高める「ネオジム」や耐熱性を高める「ジスプロシウム」などを混ぜるのですが、当時はほぼ全てを安価な中国からの輸入に頼っていました。

そういう意味ではリスクマネジメントに問題が有ったとも言えますが、その後レアアースの使用量の削減や調達先の多様化、さらには他のレアアースへの切り替えなどの対策により、現在では中国依存度が50%程度まで低下しているそうです。

しかしながら、「ジスプロシウム」については依存度が90%以上と依然高く、大きな課題になっています。そこで経済産業省が企業や大学に対して代替材料の開発支援を始めました。

ジスプロシウム鉱石(出展 TAIWAN RARE EARTH)

9月にトヨタ自動車や三菱電機など11企業・団体がレアアースを一切使わないモーター用磁石を研究する「高効率モーター用磁性材料技術研究組合」を発足。

経済産業省はこの組織に3年間で80億円の資金援助を決定。「ジスプロシウム」を全く使わない磁石の開発に乗り出しており、10年後の実用化を目指しているようです。

また東北大学や東京工業大学が企業と産学一体となってレアアースを必要とする永久磁石を使わず、モーターに流す電流を半導体で精密に制御することで小型化を可能にした「SRモーター」を開発。永久磁石を使う従来のモーターよりも10%ほど低価格になったと言います。

SRモーター(日本電産製)

個別メーカーでも脱レアアースの取り組みが進んでおり東芝はジスプロシウムを使わない「高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石」を開発、日立製作所も金属で代替する産業用モーターを開発しています。また、大同特殊鋼はレアアースの使用量を4割削減したネオジム磁石を開発。

一方、使用済み家電や自動車から回収するリサイクル技術開発も急ピッチ。パナソニックは兵庫県内でエアコンからネオジムを取り出す装置を稼働しており、今年度は1.2トンを回収できる見込みとか。

ホンダもハイブリッド車用の使用済み電池から回収したレアアースの再利用を4月にスタート。80%以上の回収が可能で、年内にニッケル水素電池向けに再利用する模様。 

他方、ハイブリッド車などの駆動用バッテリーに使用されるリチウムなどの「レアメタル」についても、代替材料の開発が進んでいます。

ホンダ製 HV車用 リチウムイオンバッテリー

「ナトリウムイオン電池」がそれで、リチウムイオン電池の性能を大幅に上回る次世代蓄電池として期待が高まっています。低コスト化では有利とされながら大容量化が難しいとみられていましたが、トヨタ自動車が新たな基盤材料の開発に成功し、実用化研究を進めています。

ナトリウムは海水にふんだんに存在することから低コスト化し易く、性能面でも高い可能性を秘めているようです。おりしも11月15日にトヨタ自動車が学会で電池容量を大幅に高められる分析データを発表しました。

リチウムイオン電池を搭載した電気自動車の場合、今後技術が進展しても航続距離は300kmが限界とされているそうですが、「ナトリウムイオン電池」であれば1回の充電でハイブリッド車並みの500~1000kmまで引き上げれる可能性が有ると言います。

電気自動車の搭載に耐える安全性や、耐久性、電池容量の大きさななどの様々なハードルが有るものの、着実に研究成果が出て来ており、今後が期待されます。

レアアース採取風景(出展 CNN)

また、経産省によると沖縄や小笠原海域の海底掘削により、推定5000万トン(国内需要10数年分)に及ぶレアメタル鉱床の埋蔵を確認したと言います。

レアアースが政治カードに利用されたことをきっかけに、日本が持つ高い技術力を発揮する事となり、中国依存度が下がったことで既に日本へのレアアース輸出量は半減、価格も急落しているようで、中国のレアアース関連業者は今になって日本に取引を懇願しているとか。

 先日ご紹介した「天然ガス」の自給体制整備も含めて、日本は持ち前の技術開発能力を武器に埋蔵資源に於けるハンディをも克服しつつあるようです。

■経済産業省HP
 ・レアアース対策 
  http://www.meti.go.jp/policy/nonferrous_metal/rareearth/index.html

 ・次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発
  http://www.meti.go.jp/information/data/c120529bj.html#pageTop

■日立金属㈱ HP (ネオジム磁石)
   http://www.hitachi-metals.co.jp/prod/prod0/p0_7.html 

■大同特殊鋼㈱ HP (次世代ネオジム磁石) 
  http://www.daido.co.jp/about/release/2012/0113_imj.html

■インターメタリックス㈱ HP (ジスプロシウム削減磁石)
   http://www.intermetallics.co.jp/index.html

■日本電産㈱ HP (SRモーター)
  http://www.nidec.com/ja-JP/technology/story/srmotor/

 (Avanti Yasunori) 

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この記事の著者

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Avanti Yasunori

大手自動車会社で人生長きに渡って自動車開発に携わった後、2011年5月から「clicccar」で新車に関する話題や速報を中心に執筆をスタート、現在に至る。幼少の頃から根っからの車好きで、免許取得後10台以上の車を乗り継ぐが、中でもソレックスキャブ搭載のヤマハ製2T‐Gエンジンを積むTA22型「セリカ 1600GTV」は、色々と手を入れていたこともあり、思い出深い一台となっている。
趣味は楽器演奏で、エレキギターやアンプ、エフェクター等の収集癖を持つ。
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