米独の軍用車、ジープとキューベルワーゲンを比較してみた【ジープの機能美展2012】

6月10日まで入間市博物館で開催されていた「ジープの機能美展2012」。その中で一番興味深かったのが第2次世界大戦中の同じ時期、1943年に生産された2台の車、ウィリスMBジープとキューベルワーゲンTYP82。

こちらがウィリスMB。お馴染みのジープスタイルです。

そしてこちらがキューベルワーゲンTYP82。ビートルの先行開発車kdf-フォルクスワーゲンがベースとなる後輪駆動車です。フォルクスワーゲンTYPE-1、つまりビートルが本格的に量産されたのは第2次世界大戦終結後の1945年以降で、それ以前に大規模に量産された初のフォルクスワーゲンとも言えるのがキューベルワーゲンとなります。

ウィリスMBとキューベルワーゲン、大きな違いは四輪駆動か後輪駆動かということであると思われがちですが、もっと大きな違いはそのコンセプトにあると思います。ウィリスMBは4人分のシートを備えますが、後席はほぼ荷台と言っても差し支えありません。250kg積載のトラックという見方も出来ます。

キューベルワーゲンはフル4座のシートを備えていますので、人員輸送をメインに考えられていると思われます。

しっかりとしたドアも備えています。フル4座ですからジープと比べるとホイールベースがかなり長いのがお分かりいただけると思います。

キューベルワーゲンが活躍したのはナチスドイツのポーランド侵攻あたりで、これを知った米軍がジープの開発を米国内の自動車メーカーに指示した、という逸話が残っています。

そういった意味では、キューベルワーゲンは小型軍用車の元祖と言えるかもしれません。

キューベルワーゲンのアンダーフロアはフラット。これはリアエンジンの後輪駆動で、プロペラシャフトなどを通す必要が無く、せいぜいシフトリンケージしか通すものがないためです。

ウィリスMBはラダーフレーム方式。アンダーフロアはフロントのエンジンからプロペラシャフトが通り、運転席の下あたりにあるトランスファーを介して前後にトルクが送られるため、キューベルワーゲンに比べると複雑な構成になります。シャフトのジョイントなどはかなり大柄になっているので、強度はかなりあったということは想像に難くありません。

キューベルワーゲンのフロントサスペンションはビートルと基本的に同じのツインチューブによるトーションビーム。ステアリングロッドなどはアンダーパネルの内側、トーションビームの後方に配置されます。

ウイリスMBのサスペンションはリーフリジット。つまり板バネ。そしてハブには動力が伝達されるのでかなり大型で、ステアリングロッドは車軸の前方に配置されます。

ウィリスMBを後方から見るとラダーフレームとリーフリジット、デフの関係がよくわかります。

駆動方式とフレーム構造により、運転席の配置も大きく変わります。キューベルワーゲンは座面とフロアが離れていますので深く腰掛ける運転ポジション。

ウィリスMBはラダーフレームの上にフロアを載せているのでフロアが浅いため、足を投げ出すようなポジションになります。

乗ればキューベルワーゲンの方が乗り心地は良さそうな気もします。しかし、問題は走破性。キューベルワーゲンはリア駆動ではありますが、リアオーバーハングにエンジンを搭載しているので駆動力のかかり方が大きく、フロントエンジンリアドライブに比べればかなりの走破性を示した、と言われます。しかしウイリスMBジープの四輪駆動は、その走破性においてキューベルワーゲンを大きく凌いだのは火を見るより明らかです。

生産台数はキューベルワーゲンが派生車種まで含めて5万2千台、ウィリスMBは36万台。車両の性能というよりも、物量の違いで戦局が大きく動いた、ともいえますね。

しかも戦後、ウィリスMBなどから派生したジープが、軍用のみならずヘビーデューティー車の主流となっていきます。ジープのコンセプトの方が最終的には優れていたと言うことになるのでしょう。

それにしても、70年前の軍用車を、これだけ素晴らしいコンディションで保存しているオーナーさんの熱意にも脱帽です。

次回はM274トラックの詳細写真をお届けします。

(北森涼介)

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この記事の著者

松永 和浩 近影

松永 和浩

1966年丙午生まれ。東京都出身。大学では教育学部なのに電機関連会社で電気工事の現場監督や電気自動車用充電インフラの開発などを担当する会社員から紆余曲折を経て、自動車メディアでライターやフォトグラファーとして活動することになって現在に至ります。
3年に2台のペースで中古車を買い替える中古車マニア。中古車をいかに安く手に入れ、手間をかけずに長く乗るかということばかり考えています。
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